21 気づいたら作戦成功
新政府軍二等通信兵ユートは焼豚の芳ばしい香りで目を覚ました。そして、しまったと思った。
任務の重責に疲れはて、宿屋でひと息つくつもりが、不覚にも泥のように眠りこけてしまった。
腹の空き具合からして夕刻だろうか。
ベッドからおき上がると身体のうえに積もっていた瓦礫や木屑がガラガラと膝のあたりへ落ちてゆく。
自分を見おろして絶句した。
身体中が傷だらけの埃まみれだった。そうと気づいた途端に身体中をひりひり痛みがはしり、彼は混乱した頭であたりを見わたす。
明滅する照明が照らす室内には塵が舞い、元々どんな装飾だったか思いだせないほど散らかっている。
ふと見ると壁の一角に大きな穴が空いていて、夕闇がたれ込める通りから数名の人がこちらを窺っていた。
「あんた、大丈夫かい?」
ひとりが彼に尋ねた。
どう贔屓目に見ても大丈夫ではないが一応「ああ」と答えてから最初に浮かんだ疑問を口にした。
「ここ2階だよな?」
ユートの記憶によると2階に部屋をとったはず。
とすると壁の穴からこちらを覗いている人たちは宙に浮いていることになる。「1階だよ」と彼は答えた。
「あんたの部屋は上だったのさ」
天井を見あげると、2階の天井までふき抜けになっていた。やがて彼らは慎重に足をはこんで部屋のなかに入ってきた。
「なにがあった?」
ユートが訊くとひとりが「これだよ」とベッドの脇にしゃがみ込んだ。
「こいつが空から降ってきたんだ。あんた死ななくてよかったな」
そこにはかろうじて人の形を成している巨大な物体が大の字に倒れていた。
照明が弱くて詳しく見ることはできないが、物体の表面はほとんどが真っ黒に炭化して、ところどころ熱でひん曲がったような金属部分が垣間みえる。
身体のいたるところから煙があがり、なぜか豚の焼ける香りが漂っている。
ユートは酩酊気味の意識のなかでこれは人なのか、いや、人にしては巨大すぎる、人でないとするとなんだろう、などと考えていたとき、部屋に入ってきた小太りの男が「こいつは学者の手下で屠殺人ってやつさ」と説明してくれた。
一気に目が覚めた。
これが屠殺人?
で、これどう考えても死んでるよな。
「こんな図体のデカいやつ盗人街にはひとりしかいない。肉と鉄がごたまぜになった皮膚も、豚くさい体臭も間違いなく屠殺人のもんだ。俺の兄弟はこいつに殺された」
小太りの男はちかくに落ちていた手ごろな棒をひろい上げ、屠殺人を力任せに殴りはじめた。ユートは通信機をさがした。ベッドのわきに置いたのだから床が抜けてもこの近くにあるはず。
身体をひねるとあちこちに激痛がはしり、思わずうなり声をあげる。
けっこう寝たはずなのに寝るまえより身体が弱っている。屠殺人の発見で一度は覚醒した意識がふたたびゆっくりと遠のきはじめた。
通信機はなかなか見つからず、そこらの残骸を漁ってようやく発見したときはほとんど気を失いかけていた。
屠殺人の死を報告しさえすれば仕事は終わるだと自分をはげまして通信機をひっぱり出した。
そして血と埃にまみれた手で周波数をあわせる。
『私だ』
渋くて落ちついた声がスピーカーから聞こえた。
「屠殺人が、死んだ」
はっと息をのむ声が聞こえて、沈黙が数秒つづいた。
『一体どうやって、いや、そもそもあれは死ぬものなのか?』
「わからんが、とにかく死んでる」
そこまで言ったところでレシーバーが手から力なく落ちた。
『すばらしい!きみの昇進は間違いなしだ!』
スピーカーから聞こえる興奮した声も急速に耳からはなれてゆく。
『きみは自身が有能であることを我々にしめした。だからこそ最後にもうひとつだけやってもらいたい任務がある。最高難度であるがゆえに達成すれば褒美は思いのままだ。して、その内容というのはだな……』
そこまで聞いたところでユートの意識はプツリと切れた。
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