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19 屠殺人が倒せない

 屠殺人は落下するキャロラインを見て死ぬものと確信し、攻撃の矛先(ほこさき)をワイルドギースに転じていた。


 よく訓練された彼らは数人が一組となって、屠殺人の死角から死角へと移動をくり返しながら、絶え間なく銃撃を加える。


 擲弾(てきだん)を撃ち切ったアレン大佐は近くの建物に移動して2階から部隊を指揮した。


 さすがに勇名(ゆうめい)を馳せるワイルドギースの司令官だけあって、判断は的確で指示もすこぶる正鵠(せいこく)()ている。


 このうえなく組織的で効果的な攻撃をくり出しているが、ワイルドギースは徐々に劣勢に立たされていった。


 瓦解(がかい)した屋台に隠れる隊員を牛の頭がふき飛ばした。


 急いで建物に逃げこむ隊員たちのあとを追いかけるように豚が飛び、彼らと一緒に建物に入った直後に爆発して開口部から黒煙と血しぶきがふき出す。


 兵はどんどん削られてゆく。しかし屠殺人に弱っている様子はない。


 長衣はだいぶ前から焼失しており、(つや)のない金属板と炭化してた動物の皮がメチャクチャに配置された身体を露出させてなお、元気溌剌(げんきはつらつ)に攻撃をつづける。


 アレン大佐は険しい顔で状況を見ていた。


「大佐、どうするよ!」


 アレン大佐のとなりで彼の右腕、オウ曹長がさけぶ。


 身長2メートルに体重130キロ。


 一見(いっけん)すると近づきにくい武骨者(ぶこつもの)の風情だが、その実、ワイルドギースで最も頼られる兄貴分のオウ曹長は、一方の手で重機関銃をかかえ、他方の手で給弾ベルトを器用にあやつりながら一発も漏らさず屠殺人に当てている。


 でもすべて弾かれ銃弾があちこち跳ね返っている。


 手持ちの武器で屠殺人を破壊するのは不可能のようだ。


 ガンシップに搭載された武器ならあるいはと考えたが、あれはいま盗人街にない。

 どうすればいいんだ。大佐は心のなかでつぶやいた。


『対物ライフルの配置完了しました』


 通信機からイソルダ曹長の声が聞こえた。


 アレン大佐とオウ曹長は互いを見て顔をほころばせた。


 大佐は急いでマイクを手にとった。


「マジョリカが貸してくれたのか?」

『ええ、ふたつ返事で』


「よかった。こっちはちょうど煮詰(につ)まっていたところだ。発砲のタイミングは任す」


 ワイルドギース唯一の女性隊員であり、オウ曹長と並ぶアレン大佐の副官イソルダ曹長は魔女の店の屋上にいた。


 双眼鏡を覗きながらイヤホン越しに大佐の指示をうけると、かたわらに置いてある対物ライフルの背後でふく(しゃ)の姿勢をとった。


 銃床(じゅうしょう)に肩を当あて、あらかじめ計算した数値に基づいてスコープを調整してからトリガーに指をかける。屠殺人の頭にレティクルの十字をかさねてトリガーにあてた指をしぼってゆく。


 すると突然、屠殺人の近くに見知らぬ青年があらわれた。


 ライフルの火力を考慮するとあの青年も巻きこんでしまう可能性がある。イソルダ曹長はそんなことを気にしないがアレン大佐はおおいに気にする。


 大佐に褒められんがための狙撃で逆に叱責(しっせき)されるのはまっぴらだ。イソルダ曹長はスコープから目をはなした。


「ああもうっ!なんだよあのクソガキ!」


 赤毛の短髪を掻きむしりながら無線を手にし、呼吸をととのえてから話しはじめる。


『ちかくに民間人がいるので発砲を中断します』


 ハネツグの姿はアレン大佐も確認しており、彼の指示でワイルドギースは一切の攻撃をやめていた。


 ハネツグから最もちかい距離にいるにもかかわらず、もっとも遅く彼の存在に気づいた屠殺人はかなり狼狽(ろうばい)した。そして反射的に牛をふり下ろした。


 ハネツグは攻撃をたくみに回避して軽いステップで牛の頭に足をのせた。すべるように脊髄を駆けあがり、屠殺人の首元にある鉄板のわずかなすき間に手をつっ込んだ。


 野獣の咆哮(ほうこう)をあげて屠殺人がハネツグを捕まえようとするが、彼はその手をすり抜けながら跳躍し華麗に地面へ着地した。


 その手には複数の神経線維コードと血管ゴムがにぎられていた。屠殺人の首から真っ赤な不凍液が噴水のようにあふれ出した。


 両手の握力がなくなったのか、つかんでいた牛の頭を地面におとした。


 屠殺人は身体中を真っ赤に染めながら(たけ)り狂ってハネツグに迫る。


 常人なら血相(けっそう)変えて逃げだすところだが、ハネツグは至って冷静で、むしろ屠殺人にむかって静かに走りだした。


 両者がまじわる直前、ハネツグは身体をかがめて足の下をすべるように抜けて反転し、今度は屠殺人の右足にある筋肉と鋼板のあいだに手を入れて神経コードをブチブチひき抜いた。


 屠殺人は苦悶の声をあげて右足をピンとのばした。


 これで右足は動かせまい。

 左足も同じようにすれば後はいかようにも料理できる。そう考えて移動が一瞬遅れたのがいけなかった。

 

 素早い動作でふり返る屠殺人に危険を感じてすぐ、ハネツグは巨大な拳で横殴りに殴りつけられたと認識したとき、すでにその身体は放物線を描いて宙を舞っていた。


 地面に衝突してからも丸太を転がすように回転してようやく止まった。


 キャロラインは声にならない悲鳴をあげた。


 彼を助けたい。とはいえ自分ではどうにもならないのは明らかだし、だったらこんな所にいないで逃げたほうがいいのは分かってる。


 分かってるのにハネツグを助けに向かっている自分は、一体どうしてしまったんだろう。


読んでいただいてありがとうございます。

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