13 博士も女神を求めてる
メイドの淡々とした台詞にオズ博士の表情は凍りついた。
しばらく絶句してメイドを見ていたが、口を数回パクつかせてからやっと「ほ、ほんとうか」と絞りだすように言った。
「間違いありません」
「根拠は?」
「遠隔測定機で調べたところ、スペクトル比が同一波長を示しました」
「外観はどうなのだ?」
「形こそ女神アルテミス像を模していますが、もともとあれはいかようにも変形するものですし、それにあの強烈な青い光はエナジーコアにちがいありません」
今度はハネツグが驚いた。
彼がオズ博士に説明しようとした女神像の特徴が、どういうわけかメイドの口から発せられたのだ。
ハネツグは「それ、僕が探しているやつです」と言おうと腰を浮かしたとき、博士がテーブルをげんこつで叩いた。
激しい音がしてすべての料理が一瞬宙に浮いたあと一斉にガチャリと音を立てて着地した。
「なんとしても手に入れろ!」
博士は吠えるように叫んだ。その豹変ぶりに圧倒されてハネツグの動きがとまる。
「いまエナジーコアはどこだ、魔女の店か?」
「いいえ若い女性が持っています」
「そいつは今どこにいる?」
「盗人街に宿泊するようなので場所はあらかた予測できます。これが女性の画像です」
メイドはペンのような物を取りだして先端を斜め下に向けた。するとペン先が光って若い女性のホログラム映像が地面からせり上がる。
それはまさしくハネツグの一目惚れした女の子だった。
オズ博士は椅子のわきにあるコンソールを引きよせて高速で操作をはじめた。
「でかしたぞ。いまから屠殺人を娘のところへ向かわせる」
メイドは博士に一歩ちかづいて、ディスプレイを指でしめす。
「おそらくこのあたり」
ハネツグの位置からは見えない。
『オズ博士、呼んだか?』
コンソールから迫力満点の濁声が聞こえた。
「わが友、屠殺人よ、やってもらいたい仕事がある」
『落ちてきた男どもを解体している最中なのだが』
「あとにしてくれ。いま、女の画像とだいたいの居場所をデータで送る。そいつはエナジーコアを持っている。奪ってきてほしい」
『わかった』
「いいか、必ず持って帰ってきてくれ!そのためなら誰を殺しても、なにを壊しても構わない。後始末はこちらでつける」
ハネツグは勢いよく席を立った。
「……どうしたハネツグ?」
目をまん丸にしてオズ博士が訊いた。
メイドも瞼の重たげな目でこちらを見ている。ハネツグがとり戻そうとしている女神像を、博士は奪おうとしている。
そのためならあの娘を傷つけることも厭わない勢いだ。
「僕、これで失礼します」
「じゃあクラボットに案内させるよ」
「けっこうです。一本道みたいなものですから」
言い終えると同時にふたりに背をむけ走りだした。
うす暗い空間をひたすら進んで、ようやく螺旋階段にたどりついた。
見上げると昼の陽ざしを浴びた空がちいさく見える。
階段を一気に駆けあがろうと気合いを入れたときだった。下からつき上げるような振動を感じて、ハネツグは思わず欄干をつかんだ。
いまのはなんだと思っていると、再びズンッという重い衝撃が身体に伝わってきた。スローターハウス全体が一定の間隔で揺れているのだ。
しかも揺れが徐々に大きくなっている。
もしやと欄干に身をよせて下を見た。
すると螺旋階段を上がってくる人物を発見した。
つぎはぎだらけの長衣と頭巾で身体をすっぽり覆い、両手に鎖のような物を持ち、その一端にとり付けられた歪な鉄球らしきものをぶんぶん振り回して階段を上っている。
色々と目をみはる部分の多い人物だったが、わけても特筆すべきは彼の大きさである。大人ふたりが余裕をもってすれ違うことができる階段が彼にとってはギリギリの幅になっている。
彼が窮屈そうに一歩一歩階段を上るたびスローターハウスが地震のように揺れている。
あれが屠殺人だろう。
そんなことを思っていると屠殺人が動きをとめ、ふり回していた鉄球を両手に持った。
そしてゆっくり頭上をあおぎ見た。
ハネツグは腰がぬけるほど驚いた。
日光が照らしだした頭巾の奥には、彼の衣服と同様のつぎはぎだらけの肌に下手な福笑いのような目鼻が貼りついていた。
おまけに手にしている歪な鉄球は、よく見ると鉄球ではなく牛の頭部であり、そこからのびる鎖もまた、鎖ではなく牛の背骨であった。
ハネツグは飛ぶように階段を駆けあがった。
体格や容姿を見るかぎりあの屠殺人とやら、まず間違いなく人間ではない。
やつより早く見つけなければ彼女の身が危険に晒される。
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屠殺人を描いてみました。↓
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