島の目
家の屋根裏を夜になるとトトトトトト…と走る音が聞える。虫も居るから今更感あるが、カリカリ引っ掻く音まであるとネズミの類いかと思ってしまう。季節は冬に近付き、暖を求めて入ってきたか。家主に相談すると、それはトカゲだ、と言われた。ヤモリの仲間で夜行性。家の明かりに寄ってきた虫を食べるらしい。
こんなに賑やかな音がするものか、と聞くと、彼らは島の目だからどこにでもいるし、我々が悪さしてないか見張るので忙しく、いつもバタバタしてるんだよ、と返ってきた。島の目。家のどこにでもいるトカゲ。彼らはヒトをずっと見ている。物陰からジッと見つめている。それ故に島の目と呼ばれている。
ある逸話があるんだ、と家主は続けた。
街角に女装した男が一人。
とても美しく、男と誰も思わない。
街でも有名なワルが、手下と共に彼を連れさった。
警察には賄賂を渡しているため、男の知り合いの女たちが探すよう頼むが、一向に探そうとしない。
そうしている内に彼はもう殺されていた。
誰も証拠もないし、問い詰めもしない。
ワル共は自分たちのやったことを何ら反省もせず、酒を飲んでいた。
ただ、その全てをまばたきもせず見ていたものがいた。
無数の目が見ていた。
突然強風が吹いた。
ワル共の溜まり場となっている家は崩れ、皆下敷きになって死んだ。
崩れた家からは信じられない数のヤモリが飛び出し散っていった。
後に調べると、家の柱が一部だけ、不自然なまでに削れており、それが原因で倒壊したことが分かった。
また女装した男は、後に荷物の下に潰されているのが見つかった。
そして、これは島が被害者と同じ苦しみを与えたのだろうと言われるようになり、柱を削ったのは大量のトカゲだったのではないかと噂されるようになった。
トカゲってそんな力があるのだろうか。家主は、悪いことはしないことだ、悪いことをすれば島が同じ苦しみで罰してくる、と笑いながら言い、部屋を出ていった。今日も屋根裏は賑やかだ。各自の持ち回りの家を監視するため、小さい手足を一生懸命動かして部屋を巡回しているのだろう。彼らが壁に貼り付いてこちらを観ていると、あの瞳にはどんなふうに我々は見えているのだろうか、と思うようになった。悪いことはしてませんよーと返すと彼らは部屋を去って、今度は隙間からこっそりと監視する。番犬にはならないが、もし自分に何かがあったら、加害者も同じ目にあうのだ。そう考えると虫を捕まえて、お疲れ様と言ってあげたくなる。殺された男娼も、無念ではあろうが、少しは気持ちが晴れたのではないか、と思うのだった。




