島の料理と王妃様の話
島の主食は芋と肉だ。森の中で育つ芋と、野生動物を狩って食べる。この島の生活は、当たり前だが、島の恩恵と共にある。島の外から輸入される食品もあるし、羊や牛、豚も飼育されるようになってからは野生動物を食べることはなくなった。それでも臭み消しに使っていた植物は今も頻繁に食卓に出てくる。肉の煮込みが良く作られるが、必ず一緒に煮込まれている。森によく群生しているらしく、気軽な山菜として楽しまれてもいた。
そして今日は私の家主の親族、ネイティブの方、へお邪魔していた。庭では男たち芋を焼いていて、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。私は家の中で女性たちに交じって地元の料理のお手伝いをしていた。臭み消しに使う山菜は葉の部分と根の部分を分けて使う。大量のそれらを葉と根に切り分ける仕事をしていた。それが終わったら羊のチーズを小麦粉と卵を溶いたものを揚げる仕事が待っている。子供達も手伝い、こちらもある意味賑やかではあった。
子供たちは真面目に手伝っているが、真面目過ぎて、私の手際を容赦なく指摘する。おそらく同様に親から言われているのだろう。言うだけあって手際は良い。普通であれば子供達で遊ぶところが、この島では積極的に手伝う姿が見られる。学校に通うようになると部活動に勤しむようだが、それまでは家の中で様々なことを学ぶのだ。
今日作っているのは島の伝統料理を含む様々な料理。子供たちは伝統の料理を親から教わる。そんな子供たちがこんな話をしてくれた。
おにーちゃん、知ってる?
この料理ね、昔いた王様の大好きな料理なんだって。
王妃様が、王様のために作った料理で、お肉が好きで、お野菜が苦手な王様のために、一緒に煮込んであげたら美味しいって食べてくれたんだって。
だから好きな人に食べさせてあげると幸せになれるんだって。
お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、お爺ちゃんも、お祖母ちゃんも、みんな好きだから、その人のことを考えながら作ってあげると美味しくなるんだよ。
その王様と言うのは喋る剣を持ってる王様のこと?と聞くと、そうだよ、と返ってきた。だとすると王妃と言うのは元人形だったはずだ。あの話に後日譚まであるとは驚きだ。随分とファンタジーだったので昔の王様の話だと聞いてはいたものの信じてはいなかった。実はモデルになった実在の人物がいるのかもしれない。そして肉の臭み消しとして使われる葉と、刻んで薬味にするこの植物が、肉好きにとって更に美味しくさせるハーブなのだから好んで食べたのだろう。
そういえば最近、これを雇用主の家で食べたのを思い出した。そこの娘さんがわざわざ私に食べさせてくれたのだ。考え過ぎだろうか、と思いつつ謂れを聞いてしまうと妙に意識してしまう。もしかして、何かのお返しが必要なのだろうか。
すると今度は大きな寸胴に大きな木のヘラを入れてかき回している恰幅の良い、ここの家主の妻が楽しそうに笑った。好きな女の子に作ってもらったら赤いものを返してあげるとよいよ、と私の考えを読んだような回答が返ってきた。それを聞いた子供は、白いものは喋る剣が好きで、茶色いものは小さい太っちょ竜が好きで、緑色は小間使いが好きで、赤いのは王妃様が好きなんだよ、と教えてくれた。すると、返す色で相手への好感度を表すのか。色のヒエラルキーは不明だが、ここで赤をあの子に返してしまって、変な勘違い男にならなきゃいいけど。
皆さんはどんなものを返してもらったのですか、料理している主婦たちに尋ねると、一般的には森の赤い実をつけた枝を手折って渡すのだそうだ。森に入れるのは成人になってから。それまでは女性に対して好意を示す手段がない。代わりとなる赤いものを渡すことでプロポーズにはならないらしい。それでもお返しに気を遣うのは変わらない。
この島の男は、このような実に慎ましやかな好意に対しても、食べさせられる度に勇気を試されるのか。外で酒を飲みながら芋の様子を見る男たちに尊敬しかない。そんな穏やかな午後だった。




