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森と子供の話

 森に入ってはいけない。入ったら森の人に連れて行かれてしまう。 森の人は子供が好きだから。


 子供に言い聞かせる物語。その日は再び雇用主の娘さんと老婆の話を聞きに行った。妖怪とかで子供に恐怖を植え付けて近付けないようにする類の話だ。子供たちが耳を塞ぎながらも、老人の紡ぎ出す言葉を待って目を逸らさない姿は微笑ましかった。帰り際に彼女もくすりと思い出し笑いをしていた。二人の思い出がまた一つ出来たことが嬉しく、帰りは浮かれていた。

 後日、同郷の老人の家に寄り、焚火を囲んでビールを飲んでいた。足元では犬が寝そべっている。夜の森を見ていた時に、ふとその話を思い出し、老人に話した。老人もその話を知っていた。私が河童とかそういう話との類似性を語ると、老人は優しい眼差しで聴いてくれていた。皺の刻まれた瞼と、優しい双眸に焚火の明かりが反射して、いつも以上に彼の姿が深く暗闇と同化していた。私の話を全て聞くと、今度は彼の過去の体験を話してくれた。



 彼が島に来た当時、家を建てる建材が足らず、森の木を切ることになった。

 地元の了承は得たが、監督者が傍にいることが条件だった。

 彼と友人は、監督の不在に、森に立ち入って作業してしまった。

 途端に道を見失い、帰れなくなってしまった。

 二人で森を彷徨った。森は暗く、日がいつ昇り、いつ沈んだかも分からない。飢えに苦しみ、身を寄せ合いながら寝た。

 友人が熱を出し、訳の分からないことを言って暴れ出した。空腹と疲労で意識が朦朧としていた彼は友人の奇行を止めることが出来なかった。

 すると突然猛烈な風が吹いた。森が揺れ、茂った森の枝葉が友人を飲み込んだ。友人が悲鳴を上げる。彼も突然のことで驚きながら、咄嗟に近くの枝を拾って友人を助けようとしたが、友人は飲み込んだ枝葉と共に消えてしまっていた。

 その直後に監督者が彼を見つけ、彼自身は助けられるが友人は見つからなかった。



 成人の儀式は島の住民だけのもの。島の人間ではない彼は儀式を受けられないため、島の成人ではない。それは友人も同様だった。この島では成人の儀式を終えたものだけが大人であり、それ以外は皆子供なのだ。森はそんな友人を連れて行ってしまった。

 彼の遺族には遺品と共に添えた手紙に、森の動物が彼を食べてしまい亡骸を森の奥に持って行ってしまった、と書いた。許されない嘘だと思うが、あのことを伝えても信じてもらえないだろう。

 彼の告白は、穏やかな目に対し、唇は震え苦痛に満ちたものだった。あの後、島に伝わるタバコを吸い裁きを待ったものの、彼は生き永らえた。彼は友人を残して島を去れず、老人となった今もそれが続いている。島の誰かと結婚し、子を残すということもできず、島から出られないまま寿命を終えようとしている。彼の身はここにあるが、心は友人と共に森に飲み込まれたままなのだ。君は森に入るなよ、という助言と、老婆から聞いた森と子供の話が頭から離れず、仕事で森の近くに寄るときは、その陰から手が今にも伸びてきて掴んでくる恐怖を覚えるようになった。

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