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旅し、変わっていく物事についての話

 島に学校が作られてから四十周年になるらしい。島には一つしかないし、通えるエリアは限られている。それでもいくつかのエリアに跨って生徒がバスで通学している。そんな生活が続けば最初のころの卒業生も良いお歳だ。家主の従兄が遊びに来ているが、雰囲気は暗い。聞くに同窓会に出てショックを受けたらしい。




 島の議員として活躍している同級生がいる。アイツは仕事が忙しく同窓会に出席しなかった。

 たまに見かけるアイツは人前に立ち、皆から握手を求められるくらい人気があり、常に人の中にいる。

 そんなアイツはイキイキとして見た目も若々しく、顔にシミもない、イケメンだ。

 それに対し俺はどうだ。白髪がめっきり増え、シミも出てきたし、仕事も変わらない。年齢を書くことがあるたびに嫌になる。

 本当に嫌な話だ。同窓会で当時の思い出を話すたびに脳裏に、あの空間に一緒に居たであろうアイツのことが頭に浮かぶ。

 当時のアイツは目立ってなかったし、坊主頭の何者かでしかなかったはずなのに、勝手にアイツを想像してしまうんだ。




 なるほど。嫉妬と言えばそれまでだが、多くが何者にもなれないまま、誰が何と言おうと自身に誇りを持って生きていくしかない。それでも枝分かれする前までは同じだと思っていた仲間の成功は、そうそう受け入れられるものではない。彼のそれは嫉妬と言うより、あったかもしれない自分自身の投影に思えた。そう思えば納得できる話だ。喪失感、自身の誇りの揺らぎ、自分自身に注がれるはずであった賞賛を他の誰かが受けていることに対する苦しみ。彼の空いたグラスにビールを注いであげると、感謝して勢いよく煽った。聞いていた家主も、頑張ってきたお前のことを俺は知っている、お前のやってきたことはアイツにも負けない立派なことだ、と口にした。彼はそれを聞いてしばらく俯いていた。




 当時、仲の良かった奴らも同窓会に来ていたんだ。良くカードゲームとかやって遊んでいた仲間だ。仲間だと思っていた。

 でも俺に同窓会の趣旨が伝わってなかったんだ。俺は浮かれて最近の事柄とか色々語ったんだよ。

 ちょっとトイレに出たら、後ろから来た奴にいい加減にしろ、もう二度と呼ばないぞ、って怒られたんだ。

 なんでだ?楽しい場だろう?

 実は同窓会という体裁の、同級生の一人が島を離れることを送別する会だったんだ。その時聞かされたんだよ。酷いと思わないか?知ってたら俺だって気を使ったさ。

 他の奴らに聞いたんだけど、同窓会を主催した奴らは卒業後も、俺を置いてずっと仲良くしていたらしいんだ。

 奴らは俺のいないところで勝手に成熟して硬化した。そこに呼び出されて、勝手に異分子扱いされたんだ。そして誰も修復しようともしない。

 どっちが傷つくと思う?巻き込まれたのは俺だぞ。納得いくわけがない。




 よほど酷い同窓会だったか。彼の一方的な話なので判断し辛いものの、本当であるなら同情もする。彼が荒れている理由も分かる気がする。何事も透明性が信頼に直結するものだ。であるからこそ、ちゃんと趣旨を最初に説明すべきだ。これは何事にも当てはまることだろう。同窓会を断る人たちも多い理由はその辺なのかもしれない。私は運よくそんなことはなかったが、年齢と共に受け入れがたい事実、自分に関係ないところで変わっていく関係は、そのうちに訪れるのかもしれない。交流が常時行われていれば変化は緩やかであろうが、断片であればギャップに振り落とされることになる。避けられないことなのだろう。それもまた、大人になる、ということの側面の一つなのだろうから。

 島に来て、島外との連絡手段が限られている今、私とて同じなのだ。島から故郷に戻ったとき、私に何が残っているだろうか。ここに居る間に得たものは島を離れたら失われてしまうものばかりであろう。ただの空白となるか、そうでないかは今後の私次第でもある。その内、このことも含め、島を出るか、残るか判断するときが来るだろう。得るということは、失うことに責任を持つ、ということだ。その日、目の前で荒れる彼を見ながら、いつか来る自分自身を見ているようだった。

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