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職人と銀の話

 仕事が終わり、雇用主の家の前に車を停めると、助手席を降りた雇用主に小走りに近づく男性がいた。彼は雇用主の同級生で、妻の手術代を貸してほしいと言ってきた。決して安くない額を、雇用主も、その家族も、あっさりと渡した上に返済期限は設けなかった。ご友人が帰っていくのを見送ると、彼のことを信用なさっているのですね、と聞いてみた。すると雇用主は、結構貸しているが殆ど返ってこないよ、と笑って答えた。驚きの顔で見返すと、彼はこう続けた。




 王様の身の回りの物を作る専属職人を決める選考会が開かれた。

 島中の腕利き職人が名乗りを上げる中、繊細な飾りは苦手だが、質実剛健なら自信のある職人がいた。

 ただ華やかさに欠けては選ばれぬと彼は森に入り材料を探した。

 するとどうだろう、とても純度の高い銀の塊を見つけた。

 これを使った食器を作れば有利と意気揚々当日を迎えた。

 当日の朝、昨日から娘が帰ってこないと友人が相談にやってきた。

 もちろん手掛りはなく、肩を落として帰る友人を見送り、美しく輝く銀を抱えて選考会に向かった。

 準備していると、島でも五本の指に入ると言われる職人が気不味そうな顔をして彼らに近付いてきた。

 彼は済まなそうに、銀を持っていたら分けて欲しい、と聞いてきた。

 他の職人が無視する中、どれよりも美しい銀の塊を差し出す者がいた。

 彼はそれを渡すと、絶対に王様に選ばれること、選ばれたら行方知れずの友人の娘を探すように頼んで欲しい、と伝えた。

 銀を得た彼は王に選ばれ約束通り娘を探してもらい、無事に親元に戻すことができた。

 銀を差し出した彼は材料がなく、王に作品を出すこともできなかった。

 他の職人は愚か者だと嘲笑ったが、娘を取り戻した友人はエピソードと共に彼の作るものを知人に伝えて回った。

 多くの人が頑丈な彼の品を買い求めるようになり、王の専属となった者の作品は既に失われたが、彼の工房は残り、今も作風が伝えられている。




 彼は金は返さないが、私に仕事を紹介してくれるから、それで良いんだよ、と雇用主は笑った。家族も微笑んだ。そういうものなのだ。お金は信頼の証で、お金で信頼は得られないが、信頼されることでお金は稼げる。そんな当たり前を、当たり前にできることに、ただ感服するのだった。

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