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シャチに乗る男の話

 今は仕事の関係で港に寝泊まりしている。泊めてくれているのは港の管理をしている組合で、彼らの所有する建物内に部屋を用意してもらった。

 そこで港で働く同い年くらいの男性と仲良くなった。ここの人達は私たちの国の基準と比べると大分老けて見える。そのため実際の彼の年齢はもしかしたらずっと若い可能性がある。

 この島の港はここだけだが、船を出すだけなら小さな入り江に漁村が点在しているらしい。彼はそんな村の出身者で、四番目の息子であったことから、家業ではなく港に働きに出てきたのだそうだ。そんな彼の初めての漁の話をしてもらった。




 俺の初めての漁は、ヘビのようで、でも海の中を自由に、群れをなして泳ぎ回る、人の顔を持った生き物を狩る手伝いだった。

 リーダーの父と、二人の兄で潜るんだ。

 銛を使って潜って狩るんだが、次男はそのまま、兄はシャチに乗って狩るんだ。

 お前知ってるか、春先の海ってのは濁っていてあまり良く見えないんだよ。

 俺が海に潜ると目の前を他のシャチが泳いでくれたので背中に乗ったんだ。

 そいつはすごい速度で移動するんだけど、濁って何も見えない海では狩ることができず、シャチもどうすべきか分からず戸惑ってしまった。

 そのうち俺は岩に頭をかすめてしまい、海から上がったんだ。

 父は怒るが、岸に居た母が頭の傷に気付いて縫ってくれた。そのことに気付いた父は黙っていたよ。

 大量に狩っている次男は音を聞いていると言うが、海の中では何も聞こえない。

 それを俺を乗せてくれるシャチも敏感に感じ取っていたんだ。

 俺は銛をシャチに当ててはいけないと、銛を構えるが投げずに体当たりのように刺すことを考え練習し始めた。

 その練習をずっと海からシャチは見ていて、俺が再び海に入ると再び乗せてくれた。

 そしたらシャチが勝手に音を聞き、獲物の場所に導いてくれた。

 俺は銛を投げずにシャチを信じてそのまま目の前に向かって刺す。

 それでやっと仕留められた。

 それが俺の初めての狩りになったんだ。




 最初の獲物の特徴があまりにも気になって話が入ってこなかったが、大体そんな感じの話だった。彼曰く、今もそのシャチは彼を海で見つけると寄ってきてくれるらしい。シャチは頭が良いと聞くが人を識別できるくらいなのか、と驚いた。それにシャチを使った漁だなんて聞いたこともない。

 本当にそんな方法で狩れるのか、と聞くと件の生き物の大量発生が春で、網だと嚙みちぎられるから銛で狩るしかなく、シャチなしで狩るのは才能ある者だけなので、シャチは非常に重宝されているのだそうだ。

 捕ったら食べるのか、と聞くと市場に出回るほど取れないので港では食べられないが、故郷の村では食べていた、と返ってきた。人面の蛇のような生き物というのが果たしてどんな味なのかと想像したが、顔まで付いた状態で焼かれていたら食欲が出ない気がする。ちなみに塩味が効いていて旨いらしい。

 世界は広い。彼らの生活の中で暮らしていると自分の常識が何だったのかと思い知らされることばかりだ。来年の春に帰るから漁をさせてやるよ、と笑うと前髪を持ち上げて額から頭部にかけての痛々しい傷跡を見せてきた。遠慮させてもらうよ、と私は顔を引き攣らせて苦笑いするしかなかった。それでも、彼の語る海の世界は羨ましくもあった。

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