島の娯楽と出会いについて
今日は雇用主の家族と外食しに街に来ていた。立派なレストランはないので、酒がメインのオステリアのような場所だ。中央に小さいテレビがあり、カウンターにはそれを目当てに集まった客が真剣な眼差しで観ていた。この島で一番の娯楽は海外のプロレスの試合だった。雇用主もそれが目当てで、家族を連れだせば文句も言われないと分かっているため、家族連れで来たのだ。私はその口実として一緒に来ていた。目の前には雇用主の妻と娘が座っており、呆れた様子でカウンター周りで騒ぐ人々に混ざってプロレスに熱中する主人を見ていた。
あなたもプロレスが好きなのか、と娘さんに聞かれ、面白いスポーツだと思うが熱中するほどではないよ、と返す。実際、島のプロレス熱は凄かった。島に来たときは分からなかったが、大人も子供もプロレスが本当に好きなのだ。子供達も真似して土塗れになって母親に怒られている姿は良く見た。島の女性たちは家事が忙しいせいか全く興味がなく、なんだったら野蛮な遊びくらいに捉えていた。それと真逆に男たちは変な熱にあてられ試合の翌日の話題はプロレス以外聞いたことがない。島の集会では長老までもがチョップの真似事をして場を盛り上げようとし、実際に集まった人々の反応は良かった。それくらい異常な熱量で受け入れられているのだ。
だが私としては冷ややかな女性陣の目の方が気になる。無関心に騒ぐ男たちを無視して、目の前の娘さんを見て、関心の向き先をしっかりと示す。嬉しそうな笑顔と、あなたの故郷ではどのようなものが流行っているの?と興味ありげな質問が来た。そういえば故郷では、人それぞれ様々な価値観が受け入れられており、同じ興味を持つ仲間を見つけ出す方が難しい。ここのように皆で熱中できることが珍しく、ちょっと羨ましい。一人でネットの海を漂い、運よく同じ漂流者と会っては、僅かな価値観の差で別れ、再び一人で彷徨う。同じように見ることが出来る人より、受け入れてくれる人を探して皆彷徨っているのかもしれない。それを聞いた娘さんは嬉しそうに、その海を漂って流れ着いた先で、こうして知り合い、互いを理解し合おうとしていることが素敵なことだと言った。誰もが自分自身を見つけてほしくてSOSを出している。見つけてくれた人が、同じ悩みを抱えた人たちか、理解して共に歩いてくれる特別な人なのかの違いなのでしょうね。
その通りですねと返すと、母親からお似合いねと横から言葉を挟まれた。確かに抽象的な会話に合わせて聞いて返してくれる人は珍しい。島の外の文化に興味あるのかと聞くと、あなたが話してくれる島の外の話はとても好きだと言ってくれた。私もそれほど多くは知らないのだが、折角のスポーツの話題だから、私の好きなスポーツの話をしよう。世界で有名な自転車競技があり、この島の何倍もの面積を一ヶ月かけて周るのだけど…
娘さんの目がキラキラと輝いている。嬉しくなってついつい話してしまう酒場の夜はまだまだ長くなりそうだ。




