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桟橋の女性の話

 桟橋に来るたびにいつも同じ女性がいることに、ふと気付いた。彼女は髪の長い、日焼けした女性で、海沿いに住む女性達特有の赤い、ウェーブした髪をしていた。女性としての魅力もあるが、ずっと遠く、海の方を見ながらも寂しげな印象に目を奪われた。

 この辺りでは有名な女性で、代々の海の一族ではなく、数年前にやってきたらしい。その美しさに心を奪われた男たちが声をかけたが、誰も相手にされなかった。ある時は強引な手段で迫った者もいたが、見事返り討ちにされたことが知れ渡ると、誰も声をかけなくなった。

 港をいつも案内してくれる家主の親戚も変な気は起こすなよと釘を刺してきた。ただ私は彼女がなぜ海を見ているのか聞きたくなったのだが要らぬ詮索は良くないと己を戒めた。

 そんなある日、突然の雨で小さな食堂に逃げ込んだところ、同じように彼女も入ってきた。小さな店内で何もしない訳にいかずビールを頼んだ。その際に、自分でも信じられないことに、彼女の分のビールも一緒に頼んでしまった。渡された彼女は意外にも感謝してきた。私は自己紹介をし、島の外から来たことを告げる。あなたのことは知人から聞いていて、ただ聞きたいことがあったんだ、何を見つめているのか、と。彼女は外の雨を一瞥すると話し始めた。




 私は遠くの海で海賊をやっていた。

 多くの仲間がいたが、ある男と組むようになった。

 そいつは仲間に入りたてで頼りない感じで、実際にそうだった。

 それがいつの間にか、頼りがいのある強い男になった。

 組んでいるときは何でも上手くいった。

 私が相手を撹乱し、あいつが正確に仕留めた。

 良い相棒だった。


 ある日、私は仕事の準備をしながら待っていた。

 あいつは仲間たちと駅の改札を出て、階段を上がった先で別れたらしい。

 私のいるホテルまで目と鼻の先。

 でもあいつは来なかった。


 あいつはいつか足を洗って、この島で暮らしたい、と言っていた。

 ここはあいつの故郷だから。

 だから私も来た。

 あいつが来るのを今も待ってるんだよ。




 突発的な大雨は急に止み、彼女はビールの礼だけ言って出ていった。彼女はこれからも待つのだろう。あの桟橋で、故郷に彼が帰ってくることを信じて。雨は止んだが、外はまだ曇っていた。しばらく彼女の話を反芻してから私は店を出たのだった。

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