三匹のネズミ
食事を食べ終えて縁側でくつろいでいると、芋を焼き終えた男たちが、まだ熱を帯びている消し炭を囲んでビールを飲んでいた。そこからこんな話が聞こえてきた。
ある女性が騒いでいた。駐車場の中にネズミがいるのだ。
シャッターは閉じており出てくることはない。 駆除業者を呼び、唯一の出口は封鎖される。
そんなことも知らず、中では三匹のネズミが喧嘩をしていた。
二匹が喧嘩中で、一匹はドラム缶の上で様子を見ながら茶々を入れていた。
この間お前の好物を食べる手伝いをしてやっただろう。今度は俺の食べるのを手伝うべきだろう?
お前の食べたいのは、あの家のチーズだろう。あそこで僕の父の兄の妻の妹の夫の弟が捕まったんだぞ。縁起が悪い。行きたくない。
この裏切り者め。腹いっぱい食べられたのは誰のお陰だと思ってるんだ。
お前だって食べただろ?僕だってちゃんと仕事したんだぞ。あそこの猫をおびき寄せたのは僕だったじゃないか。
でも俺たちの約束じゃないか。互いの好物を順番に食べる決まりだろ?
オイラは次はあそこのパイが食べたいなぁ。
おい、お前はチーズを食べに行くことに反対しないのか?僕の父の兄の妻の…
おい、うるさいぞ。なんで行かないことにしようとしてるんだ。あそこのチーズを次は食べるんだ。これは決定だぞ。
他のところのチーズでも良いだろ?僕は嫌だぞ。
あそこのチーズにハチミツ垂らしたのがオイラは好きだなぁ。
だよな、やっぱり俺の鼻は優れてるんだ。あそこのチーズは最高なんだ。
でも罠が多いじゃないか。そこまでして食べたいものかい?僕は命あっての物種だと思うよ。
俺は、美味しいものを食べないまま生きるより、美味しいものをたらふく食って死にたいんだ。
食べられないで死ぬかもしれないんだよ?僕は嫌だ。
オイラはお腹減ったから何でも良いよ。
その腹の虫を抑えろよ!それこそチーズより前に捕まっちゃうだろ?
僕は他のチーズでも…
うるさい、行くぞ。俺たち全員で挑めば大丈夫だ。今までもそうだったろ?
オイラも食べに行くよ。
分かったよ…次のパイは僕も好きだし、頑張るよ。
よし、じゃあ行くぞ!俺についてこい!
勢いよく飛び出した三匹は気が付くと小さい檻の中。目の前にはチーズがあった。
あ、チーズがあるよ。おい、俺が先だぞ。オイラ、お腹すいた。いただきます。等分だぞ!慌てるなよ、僕が分けるよ。それじゃ、頂きます。
外では家主の女性が駆除業者に感謝と代金を支払っていた。支払いが済むと業者たちは車の中で話し合った。
俺もコイツらみたいに美味いもん食って死にたいもんだ。仲良く美味いもん食って仲良く死んだんだ。本望だろうさ。コイツら見てたら腹空いてきた。どっか食いに行こうぜ。おい、昨日はお前の食いたいものにしただろ。今日は俺に付き合ってもらうぜ。あそこのねーちゃんが美人なんだ。今度こそデートに誘ってやるぜ。
その一人が、他の男を指さして笑っていた。結局その後で声掛けたけど服が臭いって理由で断られて、その勢いでネズミ駆除を頼んだ客の女に電話かけたんだよコイツ。そしたらガキが出来た、って言われてコイツも終わりさ。それを聞いた周囲の男たちが大笑いした。
指さされた男が慌てながら止めようとする。おい、それを言うんじゃねえよ。カミさんに聞こえるだろ。今の生活に満足しているんだ。良いカミさんだよ。お前みたいに毎晩ケンカしたりしねぇ、いい女だよ。
実話なのか。ちょっと驚いたが、ネズミたちの会話は創作なのだろうか。なんか実際の話の延長のように聞こえるのが不思議だった。でも、旨いもの食べて死ねたら本望か、たしかにそうかもしれない。3匹のネズミは最後まで一緒に同じものを食べた。目の前の男たちも同じだし、自分も同じだ。この食事に毒が入ってたら皆で仲良く死ぬのだろう。月の光に山の影が見える。島はネズミを駆除した彼らをどう思っているのだろうか。男たちの笑い声が森に吸い込まれていった。




