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不良と噂の獅子道くんは、  作者: 新羽梅衣
保健室の悪魔

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7/8

6


 ◇◇


 翌日の昼休み、いつも通り教室で野井ちゃんとお弁当を食べていると、言いにくそうに顔を顰めた野井ちゃんが切り出した。



 「あのさ、昨日の怪我、どんな感じ?」

 「ん? 全然平気だけど」

 「あー、それならよかったけど、まじでごめんな」

 「そんなに落ち込むなって。いいディフェンスだったよ」



 叱られた大型犬のようにぺしょと落ち込む野井ちゃん。そんな彼を前にもぐもぐと口を動かしたまま、卵焼きを箸で取る。まだ絆創膏はしているけれど、すぐにかさぶたになって治るだろう。


 この程度の怪我なんてそんなに気にするほどのことじゃないのに、まさか一日経っても引きずっているとは。聖人君子すぎるだろ、野井ちゃん。卵焼きを口に入れる前に、野井ちゃんがこれ以上気にしないように提案する。



 「じゃあさ、今度体幹トレーニング付き合ってよ」

 「それぐらいもちろん、喜んでお供させていただきます」

 「やった、決まりな」



 すぐに転けてしまったのは、俺の体幹が軟弱すぎたせいだ。まだまだフィジカルが足りていない俺が弱かっただけ。ぶつかられたぐらいで転けてしまうなんて、ダサいの極み。それならば、俺がやることは己を鍛えることのみ。一人でトレーニングするよりも、二人の方が競い合えて熱が入る。よっしゃ、と内心ガッツポーズしていれば、「そういえば」と野井ちゃんが何かを思い付いた。



 「消毒しに行ったときに『保健室の悪魔』とは会わなかったの?」

 「保健室の……、何て?」

 「悪魔」

 「何それ、初めて聞いた」



 ――保健室の悪魔。

 悪魔なんてそんな大層なあだ名を付けられるということは、あまり素行が良くないのだろうか。進学校だから、そういう人は目立つと思うのだけど、俺の中には一切情報がない。俺とは違って、顔が広い野井ちゃんはどこかから噂を拾ってきたのだろう。


 ……と、そこまで考えて、ふよふよとおぼろげに頭の中に浮かんできた人物が一人。



 「あ、」

 「なに? やっぱり会ったの?」

 「いや、どうだろう……」



 思わず漏れた声に、鋭く野井ちゃんが反応する。さすが、ボールの動きを見逃さない男。


 まさか、あの人が……?

 確かに見た目は派手で不良っぽいなと思ったけれど、笑った顔は悪魔とは程遠い。むしろ、かわいかった……、と考えたところで思考が止まる。


 いやいや、昨日も不意にそう思ってしまったけれど、どういうこと? 男の、しかも不良相手に「かわいい」ってなに?


 一晩たっても獅子道くんへの認識が変わっていない。いや、まあ、そりゃあ変わるきっかけすらないのだからそれはそれで当たり前なのだけど、それでも男相手に「かわいい」なんて感情を持ったことがなくて、自分で自分の思考回路のバグを疑ってしまう。凄い顔をしているのだろう、若干野井ちゃんが引いているのが目に入って、我に返った俺はさっと居ずまいを正した。



 「で、その『保健室の悪魔』って?」

 「なんかね、俺も聞いた話なんだけどさ『悪魔』の特徴はものすっごい金髪で、」

 「(……獅子道くんだ)」

 「めちゃくちゃ目つきが悪くて、すぐ睨んでくるらしいよ」

 「(…………獅子道くんか?)」

 「で、ピアスをバチバチに付けていて、」

 「(………………獅子道くんだ)」

 「右手の人差し指に、ごついリングをはめてるんだって」

 「やっぱりそうじゃん……」



 金髪の悪魔の正体は、絶対に獅子道くんだ。特徴がほとんどすべて一致している。目つきが悪いというのだけは、ちょっと分かんないけれど。こんなに一致しているなら、「保健室の悪魔」は獅子道くんで間違いない。


 最初から確信めいていたとはいえ、動揺を隠せない俺は珍しく取り乱しながら机に突っ伏した。近くの席に座った女子たちから「エース様、ご乱心?」「大丈夫かな」と聞こえてくるのが辛い。獅子道くんのせいで、踏んだり蹴ったりなんだが。



 「どう? 思い当たる節はある?」

 「んー、多分その『悪魔』って人に会ったわ」

 「まじ? どんな人だった?」

 「どんなって……」



 噂されているような人じゃない。そう思うけれど、たった数分しか会話していないのに、彼の素顔は自分だけが知っていたいと思ってしまう。


 何だこれ、意味分かんねぇ。自分の感情なのに、その理由を理解できない。けれど、咄嗟に口をついて出てきたのは拒否の言葉だった。



 「……ひみつ」

 「えー、ずるい」



 内緒にしていたい、彼のこと。すると、唇を尖らせて、不満を主張する野井ちゃん。だけど、いくら仲のいい野井ちゃんだからといって、そう簡単に獅子道くんのことを伝える気にはなれなかった。



 「そもそもさ、何で野井ちゃんはその人のことをそんなに気にしてんの?」

 「え、二つ名ってめっちゃかっこいいじゃん。俺、ずっと憧れてたんだよね。『悪魔』とか、俺も呼ばれてみたいなぁ……。あ、『サッカー部の巨神』とかどうかな。かっこよくない?」

 「ウンウン、イインジャナイデスカ……」

 「ちょっと、もっと興味持ってよ」



 ついこの間まで中学生だったとはいえ、まさか野井ちゃんが厨二病だったとは知らず。二つ名なんて恥ずかしいだろうと思っている俺と、そこだけは相容れないかも。そう遠い目をする俺の腕を掴んで、ぐらぐらと揺すりながら訴える野井ちゃんは、優しいけれど実はちょっと変なやつなのかもしれない。


 それにしても「保健室の悪魔」か。かわいい彼にはちょっと似つかわしくない二つ名だ。愛らしい笑顔にときめいた瞬間が、脳裏にはっきりと刻み込まれている。


 またすぐにでも会いたい。正直不良という見た目にビビってうまく話せなかったから、今度はもっと獅子道くんのことを知りたい。仲良くなりたい。どんどん欲が膨らんでいく。そんなことを考えている時点で、俺はすっかり、ちょっとした有名人である獅子道くんの虜になってしまったのかもしれない。


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