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「かおちゃんってあんなやろ。昔から綺麗な顔しとったから目立つし、みんなの人気者でな。せやのに、幼馴染みってだけで鈍臭い俺の世話をようしてくれとって、事ある毎に助けてもらっとった。こんな人気者が俺の幼馴染みなんやって誇らしかったんやけど……。たぶん、かおちゃんにとっては違うかったんやね。セットで扱われて、鈍臭いのが後をついてくるの、鬱陶しかったんやろなぁ」
「…………」
「かおちゃん……、ほんまはずっと俺のこと……、嫌い、やったんかなぁ」
「そんなこと、」
「ふふ、分かっとるよ。冗談やで」
昔を懐かしむみたいに話す獅子道くんは、きっとこれまでのことを思い出しているのだろう。
そして、独り言のように零された言葉に思わず立ち上がりかけると、獅子道くんは寂しそうに笑って首を振った。本気で嫌っていたら、獅子道くんの手を繋いだ俺をあんな風に睨みつけたりはしない。
きっと、彼は俺と同類だ。
ただでさえ歴はあっちの方が長いのだから、敵に塩を送るなんて真似はしたくないのに、今は傷付いている獅子道くんの心を少しでも癒したくて、必死だった。
「薫さんには言わないんですか」
「今の俺のこと? 言わん、言えんよ」
「…………」
「転校してきた初日にな、クラスのみんなのドン引いた顔見て『あ、間違えたな』ってすぐに分かったんよ。やけど、かおちゃんが俺に間違えたことを教えるわけないって、頑なに意地張ってた俺がアホやってん」
「獅子道くん……」
「行かなあかん、遅刻するって頭では分かってるのに、ある日突然学校に向かってた足が止まってな。俺の居場所って、家にも学校にもないんやって思ったら……、教室にはもう行けへんかった」
「…………」
「髪色変えるとか、自分から話しかけてみるとか、そうやっていくらでも取り戻すことはできたのに、そうしやんかったのは俺のせい。かおちゃんは悪くない、やから絶対に言わへん。これ以上、迷惑かけたくない」
薫さんが言ったタチの悪い冗談のせいで、獅子道くんはこんなに苦しんできたっていうのに。それでも尚、薫さんを責めようとはしない健気な姿に、俺の方が苛立ってしまう。
だけど、そのあまりにも優しすぎるところを好きになったから、「薫さんと関わることをやめた方がいい」と止めるのも、獅子道くんを否定するみたいでしたくなかった。不貞腐れた俺の顔を見て、獅子道くんが柔らかな笑みを零す。
「蒼人くん、そんな顔せんといてや。……って、俺のせいか。俺、昔からアホやって言われてきたんやけど、何でも素直に受け止めすぎやね。気を付けんと」
「さっきも言ったけど、獅子道くんはそのままでいいんです」
「…………」
「まっすぐで、素直だなんて、長所でしかないじゃないですか」
「そうやって言うん、蒼人くんぐらいやで」
「俺の言葉だけじゃ足りないですか? 俺は獅子道くんのそういうところ、好きですよ」
「っ、」
貴方が自分を肯定しようとしないのなら、その分いくらでも俺が褒めて、認めてあげる。だから、無理に変わろうとはしないで。そのままの獅子道くんがいいのだから。
俺の言葉を聞いて、とうとう我慢しきれなくなったのだろう。少しずつ潤んでいた瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。宝石みたいにきらりと光っているのを見て、ひどく綺麗だと思った。
「そんな軽々しく『好き』とか言わんといて……」
「え?」
「……なんでもない」
か細い声で吐き出された言葉が知りたくて聞き返すと、涙を拭いながら誤魔化される。やっと吐き出された本音すら、俺はまともに拾えないのか。自分の不甲斐なさに腹が立つ。




