4
◇◇
たまたま空席を見つけて入った、カフェのテラス席。冷たいカフェオレの入ったグラスの外側を、すーっと音もなく水滴が滑り落ちていく。沈黙に耐えきれなくなって、必要ないくせにくるくるとグラスの中をストローでかき混ぜれば、カラカラと氷たちのぶつかる音がした。
さて、どうしたものか。目の前に座る金髪の彼は、俯いたまま顔を上げようとしない。贅沢に乗せられた生クリームがココアにどんどん溶けて、白と黒が境界線で混じっている。
獅子道くんがどうしてこんなに自己肯定感が低くて、卑屈になってしまったのかが分かった気がする。家では母親から存在を否定され、唯一頼りにしていた幼馴染みからも悪意に塗れた意地悪をされてばかり。そんな環境じゃ、そりゃあ「自分なんか」って思うようにもなるだろう。
太陽の光を反射して、シルバーのピアスがきらりと光る。以前ピアスを集めるのが好きだと言っていたけれど、もう何もかも嫌になっていないだろうか。今回を機に、着けるのをやめてしまったらそれは嫌だなぁ。獅子道くんを輝かせる、チャームポイントのひとつなのに……。
お決まりのハーフアップから覗く、ピアスで飾られた耳にそっと触れる。それにぴくりと反応した獅子道くんが、僅かに顔を上げた。
「……痛かった、ですよね?」
「ううん、よう覚えとらん。……今は、心臓の方がぎゅうってしとる」
胸の辺りを握り締めた獅子道くんが震える声で言う。泣きそうに見えるけれど、でも今は絶対に涙を見せることはないだろうなと思った。
自分の弱さを誰にも見せようとしない人だから。
……どうしたって、何があったって、ひとりで解決しようとして、自分だけが犠牲になればいいって、俺を頼ってくれない人だから。
こんな時ぐらい泣いたって許されるのに、そうしようとはしない貴方を慈しみたい。俺には弱音を吐いてほしい。無理して笑おうとせず、本音で話してほしい。あんな奴のことで頭をいっぱいにして、一人で悲しまないでほしい。
そんな願いが次から次へと浮かんできて、だけど貴方を困らせたくはなくて、今はそれを言葉にすることはできなかった。今の獅子道くんに言ってもきっと、余計に困らせるだけだと思った。
俺はただ、ありのままの獅子道くんを大事にしたい。初めて会った時のように、ずっとかわいく笑っていてほしいから。こんな風に思う理由なんて、分かりきっている。俺が獅子道くんのことを好きだから。ただ、それだけだ。
何も言葉を返せなくなっている役たたずな俺。ふぅ……と深く息を吐き出した獅子道くんは、努めて明るい声を出した。
「……せっかくの休みやのに、変なとこ見せてもうてごめんなぁ」
「……いえ」
「かおちゃんのこと、悪く思わんたってなぁ」
「……」
あ、その顔、作り笑いだ。
それが分かるほどには俺は獅子道くんに詳しくなったんだな。それが嬉しくもあり、状況が状況なだけに分かったところで何もできない自分が歯痒い。
傷付けられて尚、薫さんのことを庇うのか。損な立ち回りばかりしてどこまで優しいんだ、この人は。だけど、その優しさが獅子道くんの好きなところでもあるからどうしようもなくて、ただ胸の奥が痛い。




