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「てか、ピアスもこんなようさん開けたんやなぁ」
何の躊躇いもなく、まるでそうするのが当たり前のように、たくさんのピアスで飾られた獅子道くんの耳に触れる。すりすりと指先で撫でられているのに抵抗もせず、自由に触らせている獅子道くんにイライラのゲージがぐんと上がった。
誰にでも、そうやって触らせんのかよ。
……なんて、獅子道くんにとって何者でもない俺が言えるわけなくて、その手を振り払ってしまえるはずがなくて、ただ二人の会話を黙って見ていることしかできない。俺の知らない会話をしているうちは、ただの部外者でしかなかった。
「やって、かおちゃんが言うたんやん。見た目から気ぃつけるんやでって」
「あはは、お前アホやなぁ。あんな適当に言うたこと、本気にしてたん」
「……え、」
「あー、ごめんごめん。いやぁ、まさか本気にするとは思わんかったわ。大事に産んでもろた自分の体に穴開けるんやで? 普通は躊躇うやろ。……まぁ、お前はおばちゃんに嫌われとるから、そんなこと、気にも止めんかったんやろうけどな」
「っ、」
「てか、進学校にいきなり金髪でピアス着けた奴が来たら、みんな怖がってんちゃうん? 蒼人クン以外に友だちできたん?」
「…………」
薫さんのあんまりな物言いに、ひどくショックを受けた様子の獅子道くんが息を飲んで、ぎゅっとリングを握り締めている。傷付けたくて、わざとこんな風に言っているのか。悪意しか感じられなくて、自分の耳を疑った。
そのせいで反応するのが遅れて、俺が何も声を出せない間に獅子道くんが「そっか、そうやんなぁ……」と自分自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。深く傷付いた表情に見えるのに、その瞳には涙ひとつ浮かんでいなかった。
「俺、何でも素直に受け取りすぎやんな」
「そうやで。昔っからお前はとろいとこあるけど、こっちには俺おらんのやからしっかりせんと」
「……うん、そうやね」
「あれ、そのリング、まだ持っとったん?」
「うん、かおちゃんが『お守りやで』ってくれたから……」
「ふっ、新はほんまにアホやなぁ。それ、俺の元カノからのプレゼント」
「え……」
「捨てんのめんどかったから、冗談言ってお前にあげただけ。そんな大事にしてるとは思わんかったわ。はは、俺は守ったらへんけど、元カノの怨念がお前のこと守ってくれるかもしれへんな」
「…………」
遂に唇をぎゅっと噛み締めて、黙り込んでしまった獅子道くん。ただ獅子道くんは薫さんに会えることを楽しみにしていただけなのに。あんなに嬉しそうだったのに。どうして久しぶりに会った幼馴染みを平気で傷付けることができるのか、理解に苦しむ。
真実を告げず、騙した側の人間が偉そうに何を言っているのだろう。ピアスを開けるのだって、勇気がいる。ピアスを開けたら運命が変わる。そんな言葉を聞いたことがある。
変わりたい、強くなりたい。そんなことを願いながら、不安や孤独と戦いながら、生まれ育った場所を離れた獅子道くんの思いを踏みにじるような真似は許せない。そのピアスは、孤独な獅子道くんの決意表明なのだから。
「やっぱり、お前は俺がおらなあかんねんなぁ」
「っ、」
「大丈夫ですよ、獅子道くんはそのままで」
「……!」
薫さんが獅子道くんの頭に手を伸ばそうとするのを見て、二人の間に割って入る。庇うように獅子道くんの前に立てば、獅子道くんが俺のシャツの裾をきゅっと摘んだ。普段の獅子道くんなら絶対にしていない、無意識に取った行動。その姿がまるで迷子のように見えて、ずきんと胸が痛んだ。
大丈夫ですよ、獅子道くん。俺がいます。
口には出さないものの、そう心の中で思いながら彼の手を取る。
「貴方が心配しなくても、俺がちゃんと傍で見守ってるので。素敵なところがたくさんある獅子道くんは、今のままで大丈夫です」
「…………蒼人くん」
「へぇ……」
「そろそろ時間ですよね。どうぞオープンキャンパスに行ってきてください。その間、俺たちは二人で楽しく過ごしておくので」
そう吐き捨てて、獅子道くんの手を引いて歩き出す。結局、大人っぽく振る舞おうとしたってこれだ。こんな人目につくところで啖呵を切るなんてガキっぽかったなと思うけれど、後悔は一切していない。一刻も早く、この男と獅子道くんを切り離したかったから。早歩きをしながらチラリと振り返って見た彼は、歪な笑みを浮かべていた。




