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「……蒼人くん、」
躊躇いがちに名前を呼ばれて、視線を戻す。何かを言おうと口を開いた獅子道くんに被せるように、俺の背後から知らない声が彼の下の名前を呼んだ。
「新、久しぶり」
「あっ、かおちゃん!」
表情をころっと変えて、嬉しそうに破顔した獅子道くんがパッと俺から離れていく。止める暇もないほど、一瞬の出来事だった。そんな声、俺は滅多に聞いたことがないのに……。幼馴染みの前では惜しみなくかわいい顔を見せて、嬉しそうな声を出すんだ。ぐるぐると醜い嫉妬が渦巻いて、どんな人なのか気になるのに、なかなか後ろを振り向けない。
こうなるだろうって、初めから予想できていたことなのに。獅子道くんと彼の幼馴染みは、俺が間に入り込む隙間もないぐらい仲良しだって知っていたのに。頭では理解していたはずなのに独りよがりに嫉妬している、この現状。結局、二人きりにしたくなくて、出しゃばった結果がこれだ。やっぱり来ない方がよかったのかもしれない。好きな人が自分の目の前で他の男と仲良くしているところなんて、見ていて苦しいだけだ。
「お前、ほんまに金髪に染めてたんやなぁ」
「何で今更そんなこと言うんよ。かおちゃんが送れって言うから、俺、染めた時にちゃんと写真送ったやんか」
「いやぁ、それはそうなんやけど。まさか、ずっと染めたまんまにするとは思わんくてなぁ」
俺、そっちのけ。久しぶりの再会で話に花を咲かせる二人に、自分が蚊帳の外に追いやられていることを実感した。聞き慣れた柔らかな関西弁は癒されるのに、初めて聞く声の関西弁はどこかトゲがあるように感じてしまうのは、俺が変にフィルターをかけているからだろうか。最早、会話の内容なんて耳に入ってこなかった。
「で、そちらは?」
我慢だ、我慢。そう言い聞かせながら下唇をぎりりと噛み締めていれば、よそよそしく声をかけられてようやく振り返る。ダークシルバーの髪色がぱっと目を引く、マッシュウルフの髪型をした男。細身の体はすらりとしていて、まるでモデルのよう。左目の泣きぼくろが色気を醸し出していて、「あ、この人、モテるんだろうなぁ」と謎の敗北感を植え付けられる。その口元には、挑発的な笑みが浮かんでいた。
(あ、俺、舐められてんな)
一瞬目を合わせただけで伝わる敵意。勝ち誇ったような表情をされたって、落ち着け、今は食ってかかるな。小馬鹿にしたような相手の態度に腹が立つけれど、こっちも余裕ぶって微笑みを浮かべてみせる。負けてたまるか。そっちがその気なら、俺だって受けて立つ。
俺と彼の間でバチバチと火花が散っているのが見えないのか、獅子道くんはいそいそと紹介を始める。
「蒼人くん、俺と仲良くしてくれてる後輩やで」
「……どうも」
「御園薫。新の面倒を見てくれてありがとう」
今、絶対獅子道くんの名前の前に「俺の」って付けてただろ。この男の全てが気に食わない。思わず舌打ちが出そうになるけれど、俺たちの間に走る一触即発の空気に気づかない獅子道くんがほわほわと笑っているから、彼のためにとにかく我慢をする。




