表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良と噂の獅子道くんは、  作者: 新羽梅衣
妬みと嫉み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/39

1


 約束をしてからあっという間に時間は過ぎ去り、もう土曜日になってしまった。勢い余った結果、衝動に身を任せて自分から行きたいとは言ったものの、初対面の年上相手にうまくコミュニケーションを取れるのかと聞かれたら、答えはNOだ。毎日顔を合わせている部活の先輩たちでさえ、話しかけるときは身構えてしまうのだ。


 どんな態度で「はじめまして」をすればいいのだろう。変な空気を作って、獅子道くんに迷惑はかけたくない。朝起きてから、ため息ばかり。ずっと憂鬱で、練習も若干身に入ってない。



 「はぁ……」

 「せっかくのいい天気なのに、なーんかどんよりしてんね」

 「美山……」

 「なに? もしかして、失恋でもしたの?」

 「なっ、してないけど」



 部活を終えた後、気配を消して近づいてきた美山に突然肩を組まれて、内緒話をするみたいに囁かれる。中性的な見た目をしているせいで、ミステリアスで妖艶な雰囲気を纏っているけれど、今のこいつはただ人の恋愛模様をからかいたいだけの厄介者。相手にしない方がいい。



 「ふーん、好きな人がいることはやっぱり否定しないんだね」

 「……お前なぁ、」

 「あはは、蒼人のそんな顔初めて見た! 表情、全然変えないから、感情ないのかと思ってた。なーんだ、もっと近寄り難いと思ってたのに、意外と普通じゃん」

 「それ、本人に言うこと?」

 「あれれ、もしかして、気にしてた?」

 「…………」



 美山と話すと、調子が狂う。何を言ってもからかわれるのならもう何も話さないと黙り込めば、更に笑みを深める。「蒼人もかわいいとこ、あるじゃ~ん」とギャルみたいに話す美山の肩から逃れて、早めに退散しようと思って踵を返せば、後を着いてくる気はないようだった。



 「デートの話はまた今度、じっくり聞かせてね♡」

 「っ、だまれ!」



 こっそりと背中にかけられた言葉を聞いて、カッと頭に血が上る。声を荒らげながら言い放ったことを一瞬後悔したけれど、怒鳴られた本人は「あーあ、怒られちゃった」と悪びれる様子なし。ギャルはちょっとやそっとじゃへこたれないらしい。そのメンタルの強さだけは認めてやらないでもない。



 「じゃあね~」



 そう呑気に手を振ってくる美山には、何も反応を返さずに足を進める。きっと、俺が突然キレたように見えたのだろう。じろじろと不躾に見てくる先輩の視線は気にしないようにして、部室まで歩き続けた。


 もう、何もかも全部無視だ。

 早く家に帰って、着替えて、そして獅子道くんに会いに行こう。



 ◇◇


 休日の昼下がり、駅前は多くの人々で賑わっている。乗る予定だった電車を一本逃したせいで、約束の時間ギリギリになってしまった。改札を抜けてからも、ただ走り続ける。待ち合わせ場所に着くと、すぐに探していた姿は見つかった。化粧品の広告が貼られた柱の前、キャップを被って立っている。


 (私服は意外とカジュアルなんだ)

 制服姿しか知らないから、ドキドキと心臓がうるさい。初めて見る私服姿に見惚れてしまって、勝手に足が止まっていた。じーっと見つめるその視線を感じたのか、スマホをいじっていた獅子道くんが不意に顔を上げる。ばちんと目が合った瞬間、花が開くように彼は笑った。その笑顔が俺に向けられたものだと思ったら、堪らない気持ちになった。



 「っすみません、お待たせしました」

 「あ、蒼人くん。そんな急いで、走って来やんでよかったのに」

 「俺が早く会いたかったので……」

 「っ、ほら、汗かいとるやん」



 カバンからタオルを取り出した獅子道くんが、躊躇わずにそれを俺の首元に押し当てる。



 「待ってください、タオルが汚れちゃいます」

 「んー、ええよ、別に。タオルぐらい。汗かいとるイケメンさんもええけど、蒼人くんがそのまんまやと不快やろ?」

 「すみません、ありがとうございます……」

 「ふふ、そんな気にせんでええから」

 「……貸してください、月曜日に洗って返します」

 「頑固やなぁ。ええから、ほらじっとしといて」



 ぴしゃりと言われて固まる俺の横を、二人組の女性がクスクス笑いながら通り過ぎていく。兄に面倒を見られている弟のような立ち位置が歯痒いのに、これ以上抵抗するのも年下っぽい振る舞いになりそうで動けない。不甲斐ない自分が嫌になる。



 「できた! 他に気持ち悪いところない?」

 「はい……、ありがとうございます……」



 ちょっとだけ気分が下がった俺の顔を覗き込んだ獅子道くんが、きゅるるんとした瞳で見上げてくる。観察するみたいにじいっと見つめられると、なんだか耐えられなくなって、ふいと視線を逸らしてしまう。俺は何だかんだ、この瞳に弱いのだ。


 恋心を自覚する前なら、普通にしていられたのに。ほんの些細なことで感情が大騒ぎするから、なかなか心臓が落ち着いてくれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ