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「獅子道くんって、ずっとこの髪色なんですか?」
「ううん、こっちに来てからやで」
「へー、何でまた急に?」
前から疑問に思っていたことを尋ねれば、意外な回答が返ってくる。何だ、関西にいた時からじゃないのか。心機一転とか、そういう意味を込めたのだろうか。すると、獅子道くんは自分で髪の先を弄りながら、懐かしそうに話し出した。
「こっちに来る前にな、幼馴染みが言うてきたんよ。『新は舐められやすいから、見た目から威圧していけ』『金髪とか似合ってええんちゃう』って。それを真に受けて、金髪にしたり、ピアス開けてから転校してきたんやけど……、逆効果やったね」
「…………」
「怖がられちゃって、クラスで友だちなんか一人もできへんし、遠巻きにしながらひそひそ噂話されるし……。一回気になってもうたらな、もうあかんねん。被害妄想なんやろうけど、みんなが自分の悪口言うてるように思えてな。居心地悪くて、教室なんか行かれへん……」
黙ったまま、遮ることなく、獅子道くんの話を聞いていたけれど、気持ちを落ち着けるために深く息を吐き出さなければ、汚い言葉でその幼馴染みを罵ってしまいそうだった。強く握り締めた手の平に爪が刺さって痛い。その痛みが俺を冷静にしてくれる。
「……その幼馴染みとは、仲良かったんですか?」
「うん、物心ついた時からずっと一緒におったからなぁ。俺のことは何でも知っとるから、かおちゃんもちょーっと、アドバイス間違えちゃったんやと思うわ。かおちゃんに悪気はなかったんやから、蒼人くんはそんな顔せんといて。な? 俺は大丈夫やからさ」
「獅子道くんがそうやって笑って、全然怒らないから……」
「蒼人くんがあの時の俺の気持ちを分かってくれてるってだけで、俺はもう救われとるから。蒼人くんが気にしやんでええんよ」
「っ、」
不良校でもない、どこにでもあるような進学校に転校してきた生徒が金髪だったら、どんな態度を取られるかぐらい簡単に想像できただろう。どこまでもピュアで、まっすぐで、人を疑うことを知らない獅子道くんを騙しておいて、まだ信用されたままの顔も知らない幼馴染みが憎い。
……そんな奴、縁を切った方がいい。
そう口に出しかけて、それより先に獅子道くんが「あ、」と声を漏らす。
「そうや、かおちゃんな、今週末こっちに来るんやった」
「え?」
「土曜日にオープンキャンパスがあるらしくて、そのついでにご飯でも行こっかって約束しとるんよ」
久しぶりに会えるのだと、心底楽しみにしているのが表情から見て取れる。獅子道くんを貶めた張本人なのに。ワクワクを隠しきれていないのはかわいいけれど、その理由が幼馴染みというだけで心の中でモヤモヤが渦巻いていく。
「……それ、俺も行っていいですか?」
「えっ、でも部活あるんちゃうん?」
「午前練なので、午後からなら空いてます」
「そっか……、それなら、うん、ええよぉ」
本心では引き止めたかった。「行かないで」と、そう言える立場にはまだ立てていないから。思いつくがままに申し出てみると、少しの逡巡の後、獅子道くんは柔らかく笑って頷いた。断られなくてよかったという安堵と、もし幼馴染みが獅子道くんを傷付けるようなことをしたら俺が守らないとという責任感に包まれる。
そんな俺の隣で、獅子道くんは呑気に「こっちでもちゃんと友だちできたんやでって言うたら、かおちゃんもきっと喜ぶわぁ」と言って、ほわほわ笑っている。
「蒼人くんも、かおちゃんと仲良しさんになったらええね」
「……こればっかりはどうでしょうね」
獅子道くんはそれでいい。
何も気にせず、いつもみたいに楽しそうに笑っていたらいい。
だけど、残念ながら貴方の思うようにはいかないと思いますよ。だって、俺は既にバチバチの敵意を抱いてしまっているのだから。




