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「失礼します」とすっかり通い慣れた保健室に入って早々、視界に飛び込んできたものに息を飲んで、ぴたりと足が止まる。窓から射し込む陽光に照らされた金糸がキラキラと輝いていて、一瞬で目を奪われた。
窓枠に頬杖をついて背を向ける彼は、いつもと違って髪をハーフアップにまとめていない。初めて見るダウンヘアの獅子道くんに、ドキドキと心臓がうるさく主張する。大人びて見えるからだろうか。なんだか、いつもと違う雰囲気を纏う彼が神々しくて、遠い存在に思えてくる。声をかけたいのに言葉を奪われたようになってしまって、何もかける言葉が出てこない。
――パシャリ。
ただ、その姿を残しておきたくて、欲望のままにスマホで写真を撮れば、保健室に似つかわしくない音が鳴り響いた。流石の彼もその音に気づいて、くるりと振り返る。
「蒼人くん? そんなところに突っ立って何しとるん?」
入口で立ち止まったままの俺を認めた獅子道くんは、ふわりと表情をほころばせる。そして、あどけない表情で問いかけながら首を傾げた。
あ、いつもと変わらない獅子道くんだ。金縛りがとけたみたいに一気に肩の力が抜けて、俺は何事も無かったように最早定位置となりつつある、ベッドの横に置かれた椅子に腰掛けた。
「なぁ、さっき何撮ってたん?」
「……ひみつ」
(あ、近い……)
普段はまとめられているから全然気にならないのに。バレないうちに、素早く画面を消したスマホ。何だなんだと確認しようとして、スマホを持つ手元を覗き込んだ拍子に、彼のトレードマークの黄金がはらりと頬を擽る。と同時に、シャンプーの香りが微かに届いて、思わず顔を逸らした。衝動よりも、理性が勝った。
人の気も知らないで、無邪気に色気を振り撒かないでほしい。貴方の中で俺は善人なのかもしれませんが、いつだって、貴方に触れたいと考えている人間ですよ? 最初の頃と比べると、随分と人懐っこくなったなと思うけれど、俺以外にもこんな調子だったら……と考えただけで頭に血が上る。
そんな俺の葛藤を知らない獅子道くんは、内緒にされたことに不貞腐れて頬を膨らませている。
「ケチ、教えてくれてもええやん」
「また今度、気が向いたら見せてあげますよ」
「……ほんまに?」
「ふふ、どうしたんですか、この髪」
笑って話を誤魔化しながら彼の金髪をさらりと撫でた後、くるくると自分の指に巻き付けた。初めて出会った時からずっと、この髪に触れてみたかった。神々しいと思っていたものに触れることができた感動がじんわりと胸の奥に押し寄せる。
「別に。朝、時間なかっただけ……」
消え入りそうな声でそう言う獅子道くんは下を向いたまま、微動だにしない。さっきとは打って変わって、途端にしおらしい。大人しく、されるがままだ。
「髪下ろしてるのも、新鮮でいいですね」
「ほんま……? 変やない?」
「はい、ハーフアップも好きですけど、今日の髪型も大人っぽく見えて素敵ですよ」
「っ、べた褒めやん、そんな言われたら照れてまうわぁ」
不安そうに聞いてきたくせに、本音をそのままぶつければわたわたと慌てている。必死に照れ隠しをしようとして、結果空回りしているところが愛おしい。自然と口角が上がってしまう。




