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「ありがとう、野井ちゃん。やっと分かったわ」
「いえいえ」
「そっか、これが『恋』かぁ……」
「人気者のサッカー部エースの初恋って、響きが少女漫画みたいだね」
「俺は別にそんなんじゃないから……」
「そろそろちゃんと周りにも目を向けてみなさいよ。今朝だってそうだったでしょ、蒼人と仲良くなりたいと思ってる人はたくさんいるよ」
さっきまで恋愛のスペシャリストみたいな顔をして相談にのってくれていたのに、母親みたいなことを言って俺を諭す野井ちゃん。確かに、今日の朝は俺もサッカー部の一員として認められたみたいで嬉しかった。
野井ちゃんの言う通り、先輩たちのやっかみのせいで、俺が勝手に周りは全員敵だと思い込んでいただけで、本当はそうじゃなかったんだと今なら分かる。勝手に分厚い壁を作って、寄せ付けないようにしてたのは俺の方だった。
「あいつら、蒼人がいないところで、こっそり俺に蒼人のことを聞いてくるんだよ」
「え?」
「俺らの代なんてサッカーバカしかいないからさ、サッカーが上手いってだけで仲良くなりたいもんなんだよ。蒼人だって、そうだろ?」
「……うん」
「無理にとは言わないし、いきなり壁を取っ払うのは難しいと思うからさ、ちょっとずつ話すところから始めてみたら? あいつらも喜ぶよ」
「うん、そうしてみる」
ずっと、海外サッカーやJリーグの試合結果で盛り上がる同級生の輪の中に入れたらと思っていた。サッカーが好きという共通点があるのに、自分だけ話に入っていけないのが寂しかった。
でも、輪の外から眺めているのはもう終わりにする。そう決めた。このきっかけが恋話っていうのはなんかちょっと……って思うけれど、俺にこの勇気をくれたのが獅子道くんだと思ったら気分は晴れる。
「ちなみに、何聞かれてた?」
「えー、何だったかな。ぐいぐい絡まれるの苦手かなとか、心配してたよ」
「ふーん……」
「ああ見えて、意外と絡まれるの嫌いじゃないタイプだよって答えておいた。だから、今日実行してみたんじゃないかな」
「おい」
「あながち間違いじゃないだろ」
「…………」
「あ、困ったらすぐ黙るとも伝えておいたから」
「野井ちゃん」
「ほら、話しすぎたせいで全然箸が進んでないじゃん。早く食べな」
野井ちゃんが架け橋になってくれるのは、すごくすごーくありがたいんだけど、できれば俺の弱点とか取扱説明書みたいなことはあまり教えないでもらえるかな。だけど、のらりくらりと俺からの文句をかわす野井ちゃんに、口で勝てる日が来るとは思えなかった。




