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かわいいなぁと表情を緩ませながら歩き出すけれど、獅子道くんはやっぱり俺の後ろを着いてくる形をやめようとしない。
「どうして隣を歩いてくれないんですか?」
「えっ」
「一緒に帰るのに、前後じゃおかしいでしょ」
「いや、ほら、道狭いし……」
「車が来るならまだしも、校舎内ですよ」
「人多いし……」
「誰もいないですけど」
「…………」
せっかくなら隣を歩きたいじゃないか。こんな前後に並んで一緒に帰るなんて聞いたことがない。どうせまた変なところで遠慮しているんだろうなと分かっているから、慌てた獅子道くんの口から勢いで出てくる言い訳を悉く論破してやる。
「……俺の隣は、獅子道くんにとってしんどい場所ですか?」
「ちが、」
「すみません、今の言い方はよくなかったです。俺が意地悪でした」
「ううん、でも勘違いせんといて。ほんまに違うから。蒼人くんの隣が嫌とかやないよ」
思わず足を止めてしまう。「じゃあ、どうして」と問い詰めたくなる気持ちをぐっと抑えた。強く当たってしまったら、きっと獅子道くんはふらっと俺の前からいなくなってしまうだろう。
「……しんどい、とかやないねん。ただ、保健室の外やと蒼人くんの隣に立つのは勇気がいるから」
「勇気?」
「俺なんかが蒼人くんの隣に立てるわけないって、ずっと思っとったから。遠い存在やったのに、いきなり隣に並べへんよ」
獅子道くんの言葉に引っかかる部分はあるものの、それは一旦さておき、嫌がられているわけではないと知ってほっとする。
「どうしたら、その勇気が出せますか?」
「うーん……」
「分かりました。もっと保健室の外で会う時間を増やしましょう」
「へ?」
「こういうのは時間が解決してくれるんじゃないですか。そばにいてもいいなと思ってもらえるようになるまで、俺はいつまででも待ちますよ」
「…………」
これはきっと、獅子道くんの気持ちの問題なのだ。それなら俺は気長に待つしかできない。獅子道くんと距離を縮める、仲良くなると決めてから、俺の最優先は彼になったのだから。
ほんの少しだけ湧き上がってくる寂しさを奥底におしこんで、俺は再び歩き出す。そんな俺の背にか細い声が問いかける。
「……ほんまに誰もおらんかな」
「今は見当たりませんね」
「じゃあ……、出してみる、勇気」
「無理しなくていいんですよ」
振り返れば、ぎゅっと握り締められて白くなった手。本当はまだ気持ちが追いついていないって、それだけですぐに分かる。無理してほしいわけじゃない。一方的に努力させたいわけじゃない。そんな思いを伝えようとするけれど、こうだと決めた獅子道くんは頑固だった。
「俺、ずっと言い訳して逃げてきたから」
「…………」
「蒼人くんにこんなに言ってもらえてるのに、それでも逃げ続けるのは嫌や」
「獅子道くん……」
「他の人からしたら、たかがそんなことでって思われるかもしれんけど、ちょっとずつ頑張りたいねん」
じんと胸の奥が熱くなる。その言葉を聞けただけでもう十分。俺から逃げようとしていた獅子道くんが、一歩踏み出そうとしてくれている。ただその事実だけで、心が踊る。




