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不良と噂の獅子道くんは、  作者: 新羽梅衣
ブレーキの使い道

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19/42

5


 俺が自分の中に芽生えた感情に戸惑っていることなんて露知らず、渦中にいるのにのほほんと獅子道くんは呑気に笑っている。


 ふにゃふにゃ? へにゃへにゃ? そんな擬音がよく似合う。あー、かわいい。もうこの感情を否定できそうにない。この人を苛むすべてから守ってあげたい。ずっとこうやって平和に笑ってるところを見せてほしい、俺だけに。



 「……そういう言い方をするのは、俺だけにしてくださいね」

 「えぇ? 何が?」

 「俺以外にそんな風に笑いかけないでください」

 「ど、どんな風によ」

 「へにゃ~って、気を抜いた顔……?」

 「っ、そんな変な顔してへんし」



 俺の言葉に焦りまくった獅子道くんは真剣な表情になって、ぺたぺたと自分の顔を触って確かめる。その姿にまた胸を撃ち抜かれた。いちいち、やることがかわいいんだよなぁ、この人。


 だめだ、今は保健室という狭い空間だからいいけれど、この広い世界に獅子道くんが解き放たれたら、悪い大人に騙されてピュアな獅子道くんが汚されてしまう。獅子道くんには一生このままでいてほしいのに。嗚呼、俺が守ってあげないと。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか落ち着いていた獅子道くんはきゅっと目を細めて、真一文字になるように口の両端を人差し指で抑えていた。俺が少し目を離している間に何をやっているのだろう、獅子道くんは。くるくる変わる表情から、一瞬たりとも目が離せないじゃないか。


 ここに至るまでにきっとひとりで百面相をしていたのだと思うと、それを見逃したのが悔しくてたまらない。首を傾げてじいっと見つめれば、人差し指はそのままに、その視線から逃れるみたいに顔を逸らされる。



 「何してるんですか?」

 「蒼人くんが笑うなって言うたから、抑えてんの」

 「いや、笑うなとは言ってない……、って、あれ、今笑ってるんですか?」

 「…………蒼人くんと仲良くなれるのが嬉しいから、勝手に口角上がっちゃうの!」



 その不思議な行動を問い詰めると、五歳児が癇癪を起こしたみたいに、まっすぐに言葉をぶつけられる。珍しい大声に戸惑ってしまって、最初は何を言われたのかすぐに理解できなかった。鳩が豆鉄砲を食らったみたいにきょとんと一拍置いてから、その言葉の意味を正確に受け止めた。理解できた途端、ぼんっと弾けるみたいに一気に顔が熱くなる。


 ……っ、だめだ。

 すぐには顔のにやけが取れそうにない。こんなことを言われて、嬉しくない人なんていないだろう。


 へー、そっか、そうなんだ……。

 そう、何度も心の中でその言葉を反芻する。俺のことをあんなに拒否していたのに、もう逃げなくていい、仲良くなれるって実感したら、そんなに喜んでくれるんだ。抑えておかないといけないぐらい、勝手に口角が上がっちゃうんだ。そんな風に都合良く解釈したから、逆ギレするみたいにつんつんした態度を取られたって、ちっとも気にならない。


 あーあ、獅子道くんを真似っ子して、俺も口の端を指で抑えておくべきかな。なんて、獅子道くんが嫌がりそうな意地悪なことを思いついたけれど、許しを得て早々に嫌われたくないので我慢する。



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