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そして、獅子道くんは前と変わらず右手の人差し指にはめたリングをくるくると回しながら、おずおずと口を開いた。
「あんな、嫌やってん」
「ん?」
「……俺が保健室登校って、もう聞いたんやろ?」
「…………はい」
「そっかぁ……、蒼人くんにはまだバレたくなかったんやけどなぁ……」
嘘をついて誤魔化したって、この瞳の前じゃ全て見透かされてしまうだろう。一瞬の動揺も見逃さない、そんな雰囲気がある。
しかし、俺の答えを聞いた獅子道くんは儚く微笑んだ。寂しそうな、悲しそうな、不安そうな……。そんな声色で独りごちる獅子道くんに胸の奥がきゅっと鳴く。
「何が気がかりなのか分かりませんけど、大丈夫ですよ」
「え?」
「別にそれを知ったところで、俺は何も変わらないので」
「ふふ、蒼人くんはまっすぐやね」
「…………」
「でも、あかんよ。俺とはもう関わらん方がいい」
「え……?」
穏やかな微笑みを浮かべているとは思えないほど、残酷な言葉。くるくると落ち着かなく回されているリングが、彼の心の不安を表しているみたい。
だけど、俯いた獅子道くんから突然そんな突き放すようなことを言われたって、言葉の意味は理解できているはずなのに、うまく飲み込めない。黒い靄で心が覆われていく。ドクンドクンと、嫌に心臓が音を立てる。
「俺がみんなから『悪魔』って呼ばれとるってことも、もう知っとるんやろ?」
「……っ」
「そんな奴と一緒にいたら、いろんな人から期待されてるサッカー部のエースまで悪く言われてまう」
「そんなこと、」
「あるんよ。人の評判って怖いねん。……俺な、蒼人くんにはずっとキラキラしててほしい。応援してるからこそ、蒼人くんの足を引っ張りたくない。やから……、俺たちが話すのも、もうこれで最後」
何もかもを諦めたような表情をしているくせに、俺に気を使わせまいと無理に口角を上げてみせる。そんな獅子道くんが憎たらしい。
初めて会った時からずっとそうだ。俺ばかり心を乱されて、頭の中が彼でいっぱいになって、「どんな人なんだろう」「何が好きなんだろう」って、気になって仕方なくなっている。それなのに、こちらから歩み寄ろうとしたら、突然壁を作って一方的に拒絶するなんて酷いだろう。こんな終わり方、全然納得いかない。
「……いやですよ。そんなこと言われたって、『はい、分かりました』って素直に頷けるはずないでしょう? 俺たちの未来をそんな簡単に決めないでください」
「え?」
「嘘つきですね、獅子道くんは」
「嘘なんかついてへんもん……」
「じゃあ、ちゃんとこっちを見て、俺のことを『嫌い』って宣言してください。そしたら、俺も諦めます」
「…………ずるい」
「何がですか」
「やって、蒼人くんのこと……、嘘でも『嫌い』とか言えるわけないやん」
「ふーん、そうですか。それ、俺の都合のいいように捉えますけど、いいですよね?」
「ちが、……もう、蒼人くんはいじわるや」
恥ずかしそうに手で顔を隠しながら、上目遣いでこちらを睨んでくるけれど、そんなことをしたってかわいいだけだ。耳まで赤くなっているのもバレバレで、どうしよう、この人がかわいくてたまらない。
もっと困った表情が見たい。俺のことで頭いっぱいにしながら泣いてほしい。こんな風に誰かに執着するなんて生まれて初めて。今まで他人に対して考えたことすらない感情がどんどん湧いてくる。




