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「あの子があんなに楽しそうに誰かの話をするの、初めて見たのよ。だからもしお友だちなら……、学年は違うけど、いろいろお手伝いしてもらえないかなと思ったんだけど」
「……えーと、ちょっと待ってください。いろいろキャパオーバーで……」
「あれ、もしかして、獅子道くんの事情、聞いてなかった?」
「はい……、ちょっと頭がパンクしそうです」
「うわぁ、ごめん、やらかした」
矢野先生の言っている通り、学年が違うというのなら……、獅子道くんの方が先輩ということだ。まさかずっと同い年だと思っていた人が本当は年上だったという新事実に、更なる動揺が隠せない。
つまり、俺は年上の先輩相手に「かわいい」と思ってしまっていたのか……。その事実に困惑しないこともないけれど、でもだって、確かにあのときの獅子道くんはかわいかったのだ。感じてしまった感情は、自分相手には誤魔化しがきかない。はぁ……、と大きなため息を吐き出しながら顔を覆う俺を見て、爆弾を投下した犯人である矢野先生は「まぁ、もう言っちゃったもんはしょうがないか」と呑気に開き直っていた。顔に似合わず、適当なところがあるらしい。
「詳しいことは本人から直接聞いてもらうとして……。今までと態度を変えてほしいとかじゃないんだけどね、ちょっとだけでいいから、獅子道くんのことを気にかけてあげてくれないかな」
「まぁ、はい、俺にできることがあるなら……」
「ありがとう、獅子道くんも蓮水くんには心開いてるみたいだから助かるわ」
(ええ、本当に……?)
矢野先生の言葉にそう疑いたくもなる。だって心を開いているなら、顔を見た瞬間に逃げ出さないだろう。もう出ていってから結構経つのに、全然帰ってこないし。やっぱり、俺、避けられてるんじゃ……。そう思うと、チクリと胸の奥が切なく痛んだ。
「じゃあ、話はそれだけだから、蓮水くんも授業に戻っていいよ。ごめんね、引き止めて」
「いえ、では失礼します」
顔を顰めたままの俺を気にかけることなく、呑気な矢野先生は保健室を出ていく俺に向かって手をひらひらと振っていた。ほんの少しだけ名残惜しく思うのは、せっかく会えた獅子道くんと全然話せなかったからだろうか。
やるせない感情を乗せたため息を吐き出しながら、矢野先生に向けて会釈してから廊下に出る。ドアを閉めてから、入口の横にしゃがみこんでいる人物の存在に気づいて、びくりと体が跳ねた。
「獅子道くん……?」
「…………」
俯いて膝を抱えている彼の名前を呼べば、恐る恐るという様子でゆっくりと顔が上がる。泣きそうな八の字になった眉の下、少し潤んだ瞳。自然と上目遣いになっている彼と、ぱちんと視線がぶつかった。
「大丈夫? 体調悪いんですか?」
「…………」
何も言葉を発さない獅子道くんが心配で、その前に跪いて問いかけるけれど、彼はふるふると首を横に振るのみ。体調が悪いわけじゃないならよかったとほっと息を吐けば、大きな猫目が俺を見極めるみたいにじいっと見つめてくる。




