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苦手な数字

作者: 小雨川蛙

 

 時々思い出します。


 その日は珍しく寝坊をしました。

 だから、私は急いでいました。


 走っていました。

 冬なのに汗を掻きました。

 痩せているのに汗だくでした。


 それでも走り続けました。

 遅刻をすれば叱られますし、人に謝らなければなりません。

 だから必死でした。


 途中。

 大きな音がしました。


 聞いたことがないけれど、考えてみたことは一度くらいあった音。

 想像していたより、ずっと暴力的な音。


 人が轢かれたんです。

 信号機の色までは見る余裕がありませんでしたので誰が悪いのか分かりません。

 けれど、その人から流れる血は赤でした。


 悲鳴が響きました。

 混乱が世界を支配しました。


 私は立ち止まりスマホを出しました。

 震える指でスマホのロックを解きました。

 ふと見れば周りの人々もそうしています。


 ほっとしたのを覚えています。

 皆、私と同じ事をしようとしているのだろうと思ったから。


「やべーな、これ」


 誰かの声がした途端。

 シャッターの音がしました。


 えっ? と思い、周りの人々を見ると皆が事故現場の写真を撮っています。

 それが正しい行動だと言わんばかりに写真を撮り、撮り終わるとその場で誰かと話をしたり、あるいはそそくさとその場を去ってしまうのです。


 シャッターの音が響きます。

 何度も。


 私は何をしようとしたのか忘れてしまいました。

 シャッターの音があまりにも強く大きく絶え間なく響くものですから、本来しようとしていたことが誤りであるとさえ思いました。


 この場所から一刻も早く逃げたくなりました。


 そうだ。

 私は寝坊したんだ。

 そう思ってスマホを握って走り出しました。


 あとのことは知りません。

 スマホを見たときに、画面に映っていた119という数字。

 その数字だけは未だに苦手です。


 本当に。

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― 新着の感想 ―
人と同じじゃ無いと救急車を呼ぶという当然の行いすら誤りに思える、集団の意思って怖いな。自分だったらと考えてしまいました。
ひき逃げ犯の気持ちはこんなものかもしれませんね。 恐ろしいのは犯人だけが119を掛けようとしているところ。 国民総パパラッチ時代とは良く言ったもので、相手の事情は全く考えない。 まあ、それは犯人も同じ…
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