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モンスターエピソード

作者: 箱丸祐介
掲載日:2025/11/07

お久しぶりです私です。

久しぶりにインタールードの世界観で本編で出す予定が全くない設定の異形関連を書きたいなと思って書きました。

時系列ぼっこぼこですが気にしないでください。

そういうもんです。


それでは本編をお楽しみください。


 旧日本スぺラトニック領にあるスぺラトニック実働部隊育成施設、清仰せいぎょう高校。

 ホルダーと呼ばれる異能者や過去に異形に襲われ、スぺラトニック実働部隊に助けられたことにより、あこがれを持って入学する者。

 様々な過去を持つ者たちが集まる場所になっていた。


 いつもの時間にいつもの道、晴天の空から降り注ぐ陽の光は12月冬ど真ん中の島国をほんのりと温めていた。

 自分で言うのも変だが今日は比較的に機嫌がいい、朝食で作った卵は双子だったし、朝の占いコーナーは俺の牡羊座は1位、通学の途中に日課になっていた朝の缶コーヒーを買う自販機は珍しく当たりが出て、学校の途中で飲む用のお茶がタダで手に入った。


 というのに、校舎の下駄箱に着いた瞬間、幸運の日は様子を変えた。

 足元に落ちるいくつもの便箋を入れる封筒、残念ながらこれは俺の下駄箱を開けた時に落ちてきたラブレターとか果たし状とかそういうのではなく。

 隣の下駄箱にふたが閉まらないほど押し込まれて溢れた物だった。


「おーおー、人気者に宛てられた手紙がゴミみたいにありやがる。迷惑だし片しとくか」


 ただでさえ気分の悪い朝の登校風景、いくつも散らばるゴミをわざわざ片すだけでも気分が悪かったのにその後からはもっと最悪だった。


 教室の窓際、外を見れば校庭を見渡して黄昏れることの出来るこの席で大きなあくびをしていた俺の机を、長い金髪の女が強く叩く。

 女の名前はアリシア・レイ、同じクラスの人気者。というか容姿端麗で成績優秀それに加えてお嬢様気品まで兼ね備えている完璧超人。

 クラスどころか学校中に男女問わずファンがいる、俺の朝をぶち壊したラブコールメッセージが込められた手紙の受取人がこいつ。


「あなた、私宛の手紙に随分と愉快なことをしてくださったそうね」

「うるせぇ、こちとら朝からよかった気分を着いた瞬間ぶち壊しにされて虫の居所が悪いんだよ。失せろクソアマ」

「その前に謝ることがあるんじゃなくって?」

「謝罪を要求する立場にあるのはどう考えてもお前じゃなくて俺だろ。生憎と俺は他人の迷惑も考えられない烏合の衆に持ち上げられて鼻高々になってるお山の大将に下げる頭は持ち合わせてない!」

「どこの! 誰が! お山の大将ですって!?」

「気にするのそっちかよ、烏合の衆って言い方にキレると思ってたわ」

「それは別にいいわよ、私もそう思ってるもの」


 自信満々に胸に手を当てながらそういう、なんだこいつ。


「自意識過剰な自己中野郎に変わりはないじゃねぇか」

「ということで、謝罪なさい? この私に」

「お断りだね」

「なるほど、なら私からの返答はこれよ」


 制服のブレザーから取り出された白い手袋を俺に向けて放り投げる。


「?」

「あなたに決闘を申し込むわ!」

「お前、こんなことするためにわざわざ手袋持ち歩いてんの? 馬鹿なんじゃねぇのか?」


 手袋を受け取りそのままの窓を開け、手袋を外へと投げ捨てる。


「お断りだ馬鹿野郎、願わくば俺の平穏な生活にこれ以上一切の干渉をせず、可能な限り俺の視界に入らないよう努力してくれると助かるんだがね」

「私がいままで生きてきた中でこんな屈辱を受けたのは初めてよ。覚えてなさい!」


 顔を赤く染めながら振り上げた右足で強く地面を踏み抜き、地面を凹ませて去っていくアリシア、手袋でも取りに行ったのかなと下を見下ろしていると数分後、俺が投げ捨てた手袋を拾い上げ、見上げてものすごい形相で俺を睨んでいた。


 ※


 清仰高校模擬戦闘訓練施設内、VR訓練場。

 意識のみを転送し、実戦的な訓練を可能にする設備の中で1人訓練を行っていた。

 視界に映る黒い影、明瞭に映らないその存在は速く、鋭く、的確な攻撃を素手で打ち続け、それをギリギリで受け流す俺自身の身体は影の拳が掠めるだけで体の軋む感覚が体を走り、骨が歪む音が体中に響く。


 かれこれ数時間、ぶっ続けで戦ううち均衡を保てていた戦いは今防戦一方の展開に発展していた。


 そしてその戦いは、疲労困憊の精神が限界を迎えると同時に頭部に打ち込まれた拳によって幕を下ろされた。


「ちっ今日もダメか」


 汗まみれになっていた身体を機械から起こし、汗をぬぐいながら置いていたドリンクを飲む。


「よっお疲れさん。今回は3時間も持ったか」

「実戦でここまで上手くいくとは思ってませんよ」

「まぁ本番だったら30分持てばいいほうだろうな、それでも十分すぎるくらいさ」


 訓練の終わった俺に声を掛けてきた教員、過去にスぺラトニック実働部隊として活動し、再起不能なまでの大けがを負って戦線を離脱したということになっている彼は、付きっ切りで俺に付き合ってくれている。


「そういや、クラスメイトと揉めたんだって? 1日中あちこちで噂話が出てたぜ?」

「揉めてなんかないんですけどね、一方的に因縁着けられただけで」

「成績優秀、容姿端麗で周りからの評価も厚いクラスの人気者」

「それでも周りに迷惑をかける烏合の衆の裸のお姫様に興味はないんすよねぇ」

「おっ、噂をすれば」


 教員の視線の方を見ると忌々しい金髪の女が目に入る。

 周囲を見渡したその女は、ずかずかと俺の方に歩いてくる。


「ごきげんよう先生」

「あら、初めましてだけどお嬢様気質だったのか」

「いや、そいつ本当のお嬢様だから」

「訓練場に居るとお聞きしましたから、決闘を受けてもらおうと思いまして」

「断ったはずだが? 視界に入るなって言ったよなぁ?」

「またそんなことを言って、本当は私に負けるのが怖いだけじゃありませんの?」


 再び自信満々に胸に手を当て俺を煽る。


「止めときなお嬢さん、こいつは実技だけならここのトップだ。人間性に難があるせいでチームプレーが出来ないから扱いにこまっちゃいるが」

「余計なことは言わないで欲しいんですけど」

「おお、そうだ今度の任務コンビ組んでみたらどうだ?」

「「はぁ!?」」


「いや、お前らって2人とも近接型だろ? ということはだ。普段コンビ組んでる相手も含めて4人で組めばいいチームになるんじゃないか? お互いに正確に難ありだろうし。それに陽練お前が昇格するにも学生クラスは4人以上じゃないと出来ない依頼も多い」

「確かに・・・」

「一石二鳥だろ、別に俺は卒業まで今のままでいいとも思うけどそれじゃあ入社してから不便だぜ?」

「・・・わかりました」


「私は納得できませんわ! 実力もわからないような方と組むことも、今朝の件まだなんの謝罪もありませんもの!」

「お嬢様の方も高飛車なのはいいが3人以上での任務経験がないだろ、それに実力なんてもんはシミュレーターだけで見ても歴然の差がある。

 あんたレベル10以上のシミュレーションをクリアしたこと無いだろ?」

「10以上? シミュレーターの不具合で生まれたバグデータだと聞いていますわ」

「学生連中にはそう伝えられてるが、あのデータは正確には俺ら教員の実戦ボケを治すために用意されてるものなんだよ、例えば異形のE型とか銃を持った相手での1000人組手とかな。こいつはシミュレーターで俺らでも敵わない奴相手に3時間も持つ頭のおかしい野郎だ」

「私が同じシミュレーションで同じ成績を残せば良いってことかしら?」

「辞めとけ、実践前に発狂するのがオチだ。そんなに戦いたいなら模擬戦場入れよ、相手してやる」


 腹をくくろう、俺自身の今後のために気に食わないがこいつと組むしかない。

 圧倒的な実力で黙らせれば、大人しくなるだろうしな。


 現場に出れるほどの実戦成績を持つものは学年を問わず多くは無い、現場といってもほとんどはその空気感を味わうだけで、本職の実働部隊が敵性対象の相手をするため、学生の身分で戦うことはほとんどない。


 だが、それ故に現場に出たことの無い者は実戦までの下準備の期間が卒業してからになる。

 俺にはそんな時間の余裕は無い。


「やっと覚悟しましたわね」

「武器は――お前に合わせてやる、好きなのにしな」

「その余裕、痛い目を見ますわよ。でも、加減はしませんわ、片手剣にしましょう」

「模擬戦場の使い方はわかるよな、自分のオーダーメイド武器があるなら、識別コードをホロソードに登録すればその形に変形する。遠慮はいらない全力でかかってこい」


 俺が選択したのは柄から剣先までの刃の幅があまり変わらない、レイピアと見間違える程細い剣身の全長1m程のロングソード。


 それに対してアリシアの構えた剣は、持ち手の反対側から持ち手の終わりまで剣身伸び、鍔の部分にはリボルバーのシリンダーのような形状の物が装着されている幅の広い全長80cm程の半月型の剣。


「勝敗条件はどうしますの?」

「戦闘不能な傷を負わせたら1本、負け惜しみを言われても面倒だから3本勝負にする。ホロソードなら思い切り叩き斬ってもちょっと電気が流れるだけで、実際に切れるわけじゃない。ただ体術は関係ないから気をつけろよ」


 この場合の戦闘不能な傷というのは、心臓を突き刺したり首を斬ったり、脳天を貫いたり。

 銃であれば頭、心臓を撃てば戦闘不能。


「先生、合図をお願しますわ」

「おう、じゃあ2人とも準備はいいな?」


 互いに剣を構え、息を飲む。

 手を上げた教員を横目に、その場に静寂が訪れる。


「始め!」


 合図と同時に下がった手。

 先に仕掛けたのは俺ではなくアリシアの方。


 距離を詰め、身体に向け剣を伸ばすが。軽くいなし鍔迫り合い。


「もう終わりか?」


 煽る俺の足元に足払いを仕掛け、ジャンプで避ける。

 その隙を見逃さず、頭へもう一度アリシアの剣が伸びる、空中で落下しながらいなしたその剣からカチッと、動作音が聞こえ剣身から銃口が現れる。

 高く跳ね上がって無いとはいえ、両足は地面から離れ銃口は俺の眉間に向いている。

 空中で姿勢を帰るのは難しいのは誰でもわかるだろう、支えがない分何をするにも都合が悪い。

 が、それは常人の話。


 素早く体を捻って射線から頭部を逃がす、それとほぼ同時に放たれた弾丸は腕を掠めたのか、電流が流れ少しだけ神経が麻痺する。

 着地するまでの間に捻った身体から蹴りを放ち、剣を横に逸らさせる。

 2発目の照準までの時間を遅らせるのと、斬撃が来る方向を絞るため。


「くっ」


 銃撃が来るようなら避けて首を斬るつもりだったが、アリシアの選択は斬撃―――

 繰り出される瞬間を見逃さず弾き上げ、自分の剣に持ち上げられる形で体制を崩したアリシアの胸元に手を突き出し、発勁を放つ。


「がはっ」


 激痛と共に呼吸の苦しくなり片膝を着いた所へ、剣を突き立てる。


「そこまで! 陽練に1本!」


「初見殺しの為のガンソードかもしれんが、視線がどこを狙ってるか丸わかりだ、初見殺しの武器として使うなら初見で殺せ、悟られるような行動をするな」


「勝者の助言にしては、、、手厳しいものですわね」


 咳き込みながら絞り出すように言葉を発する、そこまでしんどいなら喋らなきゃいいのに。


「相手を殺す気で行くなら剣先に集中しろ、殺意を前に出せ、相手に察する隙を与えるから負けるんだ」

「わかりましたわ、もう1戦やりましょう」

「すぐに動けるならな、10分くらい休めまだしんどくなるぞ」


 少し間を置いて再び向き合う、お互いに一度目と構えは変わらず。


「はじめ!」


 合図と同時に今度は俺が仕掛ける、左足に剣を振り下ろしそれをフェイントに頭部へ振り上げる、その剣を紙一重で避けた反撃の一撃が横振りで俺へ襲い掛かるが、剣の根元で弾き返す。


 一瞬の攻防、アリシア自身も慢心と初見殺しの切り札が無くなったからか、動きが鋭くなっていた。


 基本的には右片手で振っている剣を、左手に持ち替え軽く振り抜く。

 見切られた剣筋を惑わすために放った一撃だったが、読まれていたのか警戒され続けていたのか、合わせるように剣を打ち上げられる、握力の許容量を超えた衝撃に剣を手放しその細い剣が宙を舞う。


 身体の後ろから振り上げようとされた剣を足で抑え、容赦なく顔面めがけて拳を振るう、その拳も受け止められ膠着状態になる。


「さっきに比べたら大分ましな動きになったな」

「えぇ、さっきの一撃で少し目が覚めましたわ」


 アリシアの剣を踏み台に落ちてきた俺の剣の方へと飛び手に掴む、だが距離を取ったという行動を見逃してはくれなかった―――

 作動音と同時今度は2つの銃口が俺に向けられる、どうやら隠し玉はまだあったらしい。


 銃声が響き放たれた2発の弾丸、1発は咄嗟に防いだ剣に当たり跳弾するが、もう1発が宙を飛ぶ俺の左肩の付け根へと刺さる。

 模擬戦用の電撃が流れ、左腕が麻痺する。


「仕方ない、そっちがそれだけの手札を出してくるならこっちも出し惜しみはしてられない」


 空中で姿勢を変え、剣を構える。そして何も無い空中を蹴り飛ばし、放つは一閃。

 懐に飛び込んだ俺がアリシアの胴部を切った。


「そこまで! 陽練に1本!」


 これが俺の持つ能力らっくの1つ【ステップ】、身体にかなりの反動が来るもののどんな姿勢であろうと、発動したその位置で任意の方向に飛ぶことが出来る能力。


「初見殺しの仕返しになっちまったな」

「今のがあなたの能力ですの?」

「あぁ、元々の身体能力ありきでもあるが、結構便利な能力でな最長50m前後は移動できる。制御できるようになるためにかなりの時間はかかったが」

「本当に【努力の天才】ですのね」

「そんなこと初めて言われたぜ」

「皆さん陰ではあなたのこと評価してましたわ。その、言いずらいのですけど、過去の事とか、今あなた自身が置かれてる状況とかも噂程度には聞いています。妹さんの為にスぺラトニック実働部隊を目指しているとか」


「そんな話がどこから漏れるんだか、俺がここにいるのは金のためだ。俺が妹にしてやれる唯一の事だしな。まぁ俺がやらなくてもって話なんだが」

「本当の事でしたのね」

「ま、これで正式に仲間ってことでいいか?」

「えぇ、これからよろしくお願いしますわ。私の方が足を引っ張るようなことにならなければいいですけど」

「さぁな、やってみなくちゃわからんさそんなことは」


 アリシアへ握手の意味で右手を差し出す、返されたアリシアの右手を取って俺達はチームを組むことになった。


 これが俺にとって最悪で、転機にもなった日の出来事。

 そして、その日から5年の月日が流れた。


 俺はスぺラトニック実働部隊ではなく、直系組織オアシスに配属となり雪白優牙というボスの元でなんども死線を切り抜けた。

 そして、俺はオアシス東京支部の支部長に任命され、合わせるようにスぺラトニックに配属になっていたアリシアがオアシス東京支部へ異動になっていた。


「久しぶりですわね陽練」

「といっても定期的に飯とかには行ってたろ、お互いに仕事の愚痴とか言い合ったりな」

「それももう1年以上前の話ですわ」

「そんなに経ってたか、時間が経つのは速いもんだな」

「あなたの部下になるなんて思ってもみなかったですけど、また一緒に戦えるんですわね」

「あぁ、俺は東京支部の支部長でお前は部下か。慣れないな」

「大出世じゃないですの、その若さで支部長になった人なんて過去には居なかったって聞いてますわよ」


「俺の場合は親の七光りってのも大きいがな、親父がスぺラトニックのボス側近ならこういうことになっても不自然じゃないだろ」

「そうかしら、大半は実力じゃない?」

「まあオアシスのボスにも以上に気に入られてるのは気になるが」


 久々に会って関係性がだいぶ変わったようにも思うかもしれないが、平たく言えば俺が大人になったようにアリシアも大人になって、年を取った結果仲良くなったという感じだ。


「支部長! スぺラトニック本部から出動要請です!」

「相手は?」

「D型異形と推定されてます、現在巡回部隊と交戦中ですが劣勢との事です!」


 要の声請掛けをしたのは学生時代から俺とペアを組んでいる望月という男だった、今回転属になったアリシアとその相棒である野々宮がこの場にいるのならこのまま同期同士で久しぶりの実戦というのも悪くない。


「アリシア、野々宮、望月。久しぶりに4人で行くか!」

「了解よ」

「他の人員はバックアップと市民の非難に当たらせろ、被害を少しでも抑えるぞ」




 現場に着いた俺達は交戦中の部隊と合流し、敵の全貌を目の当たりにする。

 異形はA~Gまでの7種類に分類され、A→Gの順番で脅威度が増していく。


 今回現れた異形は推定D型、民間人を捕食し力を蓄えて行けばE型に進化する可能性もある厄介な相手。

 俺自身今のところオアシスに配属されてからC以上の異形と会敵したことは無いが、このメンツなら多少はなんとかなるだろう。


「デスク仕事ばかりで鈍ってはいませんわよね?」

「そっちこそ内戦干渉ばっかで異形相手は久しぶりなんじゃないのか?」

「さぁ、どうかしら」


「武装解除、ライムスキン・F・陽練。コードTY01、武装名グラディアス起動!」

「武装解除、アリシア・レイ。コードTY06、武装名アルバトロス起動!」


 安全装置の解除文言をつぶやき、お互いに五年前と変わらない武器を手に持ち、背中を合わせる。


「先陣は切る、死角は任せるぞ」

「ええ」


 目の前に見える小さな異形達の元へ、強く踏み込み飛び出す。


 銃弾の飛び交う戦場の合間を突き進み、異形の1体に剣を突き刺す軽く刺さり、そのまま他の数体へ剣を振る。


 不意打ちが効いたのは1体だけで他の者たちはちりじりに宙を舞う。


「オアシスが来たか、助かった」

「後退しろ、市民の避難を最優先にあとはこっちで引き付ける」

「了解した、すまないあとは任せる!」


「完全に見た事の無いタイプだな。いや、そもそも見たことのある敵の方が珍しいか」


 宙を舞う敵に狙いを定めようとするが、狙いを絞る前に剣先から笑い声がする。


「キキキキキ」

「こいつ、まだ生きてやがるのか!?」


 まるでダメージなんかないかのように腹に突き刺さった剣から身体を抜き出し、小さなフォークのような武器を俺に向け投げる。


 紙一重で避けたがかすった頬から血が垂れる。


 笑い声の発生源が増える、宙に舞っていた異形達が一か所に集まり、成人男性ほどの大きさになって目の前に現れる。


「なるほど、そっちが本体って事か!」

「下がってください!」


 アリシアが間に入って異形に切りかかる、切った先から霧散するがすぐにまとまって元の形に戻ってしまう。


「こいつは、望月電撃弾を!」


 指示を出すと同時にアリシアと共に射線が被らないよう離れる、それと同時に近場のビルから放たれた銃弾が異形へと電撃を纏いながら着弾するが、そちらも効いてはいない様に見える。


 一瞬じっと狙撃ポイントを見つめたかと思うと、自身の身体と同じ大きさのフォークが現れ、素早くその場所へと投擲する。


「望月! 避けろ!」


 目で追えない程の速度で着弾したその武器が、ビルへと突き刺さり、屋上の下2フロアを巻き込んで建物を吹き飛ばす。


「まともな接近戦も効かなければ弾薬も効かない、だがそれ以上に。あの威力、当たったらひとたまりもないんじゃないか?」


 オアシス、スぺラトニックともに標準配備されている装備は軽装ながらも防刃防弾性能のある装備にはなっているが、そんなちゃちなもので防げるような威力には到底思えない。


「手数で勝負するしかないか、アリシア合わせろ!」

「わかってますわ!」


 先陣を切って切りかかる、すり抜けるように手応えは無く、それでいてダメージを受けているようにも見えない。


「たあっ!」


 後ろから俺の身体ギリギリを半月型の剣がすり抜ける、信用しているからこそその程度で驚きはしないし、そこに合わせてもう一段展開する方に頭を回している。

 振り下ろされたアルバトロスに下から刃をぶつけ、横向きに切り返してその位置でステップを発動し、斬りつけながら無理やり後ろへ回る。


 だが、これも大してダメージが入ってるようには見えない。


「ちっ」

「らちがあきませんわね」

「分散してる時は剣で刺せたんだ、どこかしらさせる場所があるはず」


 近くにいる相手にはなのか、脅威性の問題なのか望月を狙ったときのような俊敏な動きは失われている。

 一体全体どういうことなんだ。


 思考に脳みそを割いている隙を見抜かれたのか、元々そういう行動を取ろうとしていたのか、真意はわからないしわかりたくも無いが大きく伸びた腕が前後に居る俺とアリシアを一気に薙ぎ払う。


 アリシアの方を見るがお互いに対応は出来たようで対したダメージは受けていない、だが、あちらからの攻撃はこっちに通った。

 剣はすり抜けたような気がするが、肉体ごとすり抜けるようなことは無かった。


「今の状態がいわば捕食形態で捕食するために肉体に接触することはできるのか、ならあの分裂していた状態は何のために存在するんだ?」


「支部長、こちら望月。不意打ちは受けましたがまだ生きてます、狙撃位置に着くまで二分下さい」

「あんまり無茶はするなよ」

「わかってます」


「アリシア俺は近接戦闘に切り替える、読みが合ってればこいつはまた分裂するはずだ、その時を見逃すな!」


 距離を詰め拳を放つ、とりあえずの読みは当たった、この状態は肉体での攻撃は通るなら!。

 足を真横に置いて鉄山靠を放ち、身体を弾くそのままの勢いで腹部と思われる場所に手を置き発勁を放ってもう一撃。

 腹部に一撃、全身に一撃、もう一撃を顎に向けて掌底を食らわせる。


 人間相手なら余裕で気絶させられるレベルの攻撃だが、怯みはしてるが致命傷になっているようには思えない。


 こっちは平手打ち一発でもまともに貰ったら死ぬだろうに、理不尽極まりない話だ。


「おらっ」


 流れで放った蹴りを防がれ、手痛い一撃を浴びるかと思ったのだがその位置で8体に分離し、一斉に俺の方に襲い掛かる。

 腕とほほの肉をえぐられ、服に守られているズボンにまでダメージが入る。


「いまだ!」


 だが分離するのを狙っていた俺達からすれば好都合、2発の銃声が鳴り宙を舞う異形が打ち抜かれ地面に落ちた。

 剣を握り直し俺自身も2体切り落とす、アリシアも3体撃ち落とし残りは1体。


「ここまですんなりいくと逆に不自然に感じちまうのは俺があまのじゃくだからか?」

「陽練! ラストを!」

「わかってる!」


 宙に舞った1体を剣で貫き、全てが動かなくなる。


「勝ったか?」

「いや、まだっ」


 地面に伏していた異形の分裂体がうごめきだし、一か所に集まり始める。


「アリシア下がれ!」


 集まり始めた場所に携帯していたグレネードを放り込み、爆発と共に煙が上がる。


 直ぐに晴れた爆炎の中、元の形に戻ろうと形成をし続ける異形だったが力無く動かなくなっていった。


 完全に動きを止め、気を抜こうとした瞬間だった。周囲から無数の分裂体が現れ本体に同化していく。


「キキャキャキャキャキャ」


 再び不気味な笑い声を挙げながら今までとは比べ物にならない醜悪さを醸し出しながら、現れる。


「なるほど、それが本体って事か」

「これがD型異形?」

「いや、こいつら分裂状態で食いまくってたらしいな。こいつは恐らく」

「E型?」

「うちかスぺラトニックのボスが到着するまで時間を稼ぐぞ、決死の作戦になるだろうが」


 剣を構え、覚悟を決める。

 だが、一瞬にしてそんなものは必要が無いほどの理不尽な暴力が俺に降り注いだ。


 一瞬で目の前に現れ、一撃、人間が絶えれる衝撃の限界を超えた一撃が全身を駆け抜けて突き抜ける。

 近くの障害物にぶつかって身体は止まるが、全身の骨が悲鳴を上げ、左腕は完全にひしゃげた。


「死ぬな、これは」


 1秒でも一瞬でも、どんな刹那でも時間を稼ぐしかない。

 命を捨てろ、それで誰かがこいつを倒せればそれで本望だろ?。


 アリシアの方へ向かった異形へ、身体を無理矢理動かした上でのステップを使い、自傷でダメージが入っているのをわかりながらも異形を足止めする。


 何度引きはがされようと、なんど踏みにじまれようと。


 うっとうしくなったのか、異形が俺の方をもう一度睨むように見つめる。


 振り下ろされた腕の始動を見てからステップで、ギリギリの距離を交わし続ける身体が動かなくなるまで何度でも。

 身体的にも成長しているから一日に使える回数は増えたがそれでも限界はもう見えてきている。

 後ろに引いたタイミングで段差に足を引っかける。

 身体が宙に浮く、鬱陶しく周りでうろうろしていた俺は今目の前にいるこいつにとって目障り以上の何物でもないはずだ、その隙を見逃さない程には。


 大きく振り上げられた腕が直撃コースでやってくる、死を覚悟したがその腕は途中で止まり、白銀の隊員服に身を包んだ男が目の前に現れる。


「よく持ちこたえた、あとは任せて」

「ボス、遅かったじゃないっすか」

「北海道から急いで来た割には大分早いと思うんだけど」


 そりゃあ確かに。


「キキキキキ」


 腕を軽々と止められた事に恐怖感を覚えたのか、

 気圧されたように後ずさりしながら戦闘態勢を整えている。


「ごめんね、時間が無いから少しだけ容赦なくいかせてもらうよ」


 そういったボスは異形の前まで一瞬で距離を詰め、数発打撃を入れてから宙へと放る、そして手で鳥のようなマークを作り唱える。


「ホーリー・フェザー!!」


 宙へ投げられた異形を無数の白光の粒で象られた大鳥が食らう、光が霧散して晴れた時、その場所に異形の姿は無く。

 戦いの痕だけがその場に残された。


「傷は治す?」

「いや、大丈夫です。この程度なら医療ポッドに入ればなんとかなると思うんで」

「そっか、じゃあ僕はもう行くね。後片付けはよろしく」

「俺らもスぺラトニックにぶん投げて帰りますよ、流石に満身創痍なんで」


 去って行ったボスを見送って、周りを見渡す。

 今にも泣きそうな顔でアリシアが俺に向かい飛び込んできたが、身体中痛くてそれどころじゃない。


「馬鹿! 死んだらどうするつもりでしたの!?」

「わりぃ、そこまで考えてなかった。お前を守るので精一杯でよ」

「それで死んだら意味ないじゃないですの、本当に馬鹿ですわね」


「泣くなよ、俺が悪い事してるみたいじゃねぇか」

「本当に心配したんですから」

「帰ろうぜ、今日は流石に疲れたわ」


 血まみれになりながらアリシアに肩を持たれ、あとから追いついて来た望月と野々宮が追い付き、3人がかりで運ばれていく。

 久しぶりの実戦にして不格好な勝利だが、生きているんだからよしとしよう。


 ボスが来てなかったら死んでたかもしれねぇけど。

 結果論は嫌いじゃないしな。

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