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第19話 市場の賑わいと大地の声

馬車の車輪が森と平原が交わる道を進む音が、朝の風に混ざり合う。土焼の里を後にして数日、リオは市場が賑わう小さな村『森平の里』にたどり着いていた。露店が並び、収穫した作物や手工芸品が色鮮やかに並ぶ集落は、活気と穏やかさが共存する場所だ。

「ルッカ、市場の賑やかさがいいね。風も大地も、元気よく語りかけてくるよ」

リオは愛馬ルッカの首を撫で、荷台を確認した。土焼の里の陶器の杯と粘土草、霧湖の里の干し魚、織川の里の彩草染めの布が積まれている。リオの共感覚――虫の声に加え、自然界の要素(風、土、水など)のささやきを音や感覚で感じ取る能力――が、村の空気の中で活気に満ちて響く。市場のそばを舞う霧蝶が柔らかな波動で囁く。「この里、賑やかだけど、誰かが少し困ってるよ」大地がリオに直接ささやく。「作物が…疲れてる…助けて」

リオは馬車を市場の端に停め、交易の準備を始めた。自然の声が、どんな出会いを導くのか楽しみだった。


市場には、野菜や果物、織物が並ぶ賑やかな露店が広がっていた。商人たちが呼び込み、子供たちが果物を手に笑い合う。リオはハーブと陶器の屋台を出し、穏やかな声で呼びかけた。

「ハーブや陶器、いかがですか? 癒しのお茶や日常の宝物にどうぞ」

すると、籠に野菜を入れた少年が近づいてきた。年の頃は14歳くらい、土まみれの手と少し心配そうな目が印象的だ。霧蝶が少年のそばを飛び、波動で囁く。「この子、作物のことで悩んでる。家族の畑が元気ないんだ」風がリオにそっとささやく。「新しい土地…向こうに…元気があるよ」

「こんにちは。リオ、旅の商人だよ。野菜、立派だね」

少年は少し照れながら答えた。「俺、ケイ、農家の息子さ。ハーブ、いい匂いだな…でも、最近畑の作物が小さくて、家族が困ってるの…」

ケイの声に、霧蝶が波動を送る。「彼、家族を支えたいんだ。土が疲れてるのが原因だよ」リオは微笑み、ケイに提案した。

「ケイ、畑のこと、ちょっと手伝えるかも。新しい土地、見に行ってみない?」

ケイは目を丸くしたが、リオの穏やかな声に安心したようで頷いた。「本当? 助かるよ、リオ!」


その午後、リオとケイは村の外れの畑へ向かった。ルッカは市場で休み、風がそっと道を導く。畑の土は硬く、作物が小さく育っている。大地がリオにささやく。「疲れた…新しい土が必要だ」風が加わり、「平原の向こう…豊かな地があるよ」と囁く。

「ケイ、土が疲れてるみたい。平原の向こうにいい土地があるよ、行ってみよう」

リオの言葉に、ケイは驚きながらもついてきた。平原の向こうでは、柔らかく湿った土が広がり、草が元気に育っていた。「これ、すごい! 畑、変えられる!」ケイは目を輝かせ、土を確かめた。

霧蝶がケイのそばを飛び、波動で伝えた。「彼、家族の笑顔を思い浮かべてる。新しい畑で希望が戻ったよ」リオはそっと尋ねた。

「ケイ、畑って家族にとって大事なんだね」

ケイは頷き、笑顔を見せた。「うん、父さんとお母さんが一生懸命育てた畑なんだ。いい作物で、家族を幸せにしたい!」

リオは微笑み、ハーブの入った布袋を渡した。「これ、ミントとカモミール。土に混ぜると、作物がもっと元気になるよ」

ケイは笑顔で受け取り、目を輝かせた。「ありがとう、リオ! 畑、絶対元気にするよ!」

そのとき、風が急に強まり、霧蝶が警告の波動を送った。「気をつけて! 近くに鳥の群れが!」リオは素早くケイを庇い、ミントを手に振った。風が香りを広げ、鳥は遠ざかった。

「リオ、なんでそんなこと分かったの? 風と土と話してるみたい!」ケイが驚いた。

「自然の声に、ちょっと耳を傾けただけ」リオは笑ってごまかした。


数日後、新しい土地での作物が順調に育ち、市場に豊かな収穫が並んだ。村人たちが笑顔で交易を楽しみ、活気が増した。最終日、リオはケイの家で夕食をごちそうになった。野菜のスープとパンが並び、土の香りが漂う。

「リオ、畑が元気になって家族も喜んでる! ありがとう!」

ケイの声に、大地がそっとささやく。「感謝が…里に響いてるよ」霧蝶はケイの笑顔を波動で伝える。「彼、家族の未来に希望が見えたよ」

「よかった。ケイの作物、また食べに来るよ」

翌朝、リオは馬車に新しい荷物――ケイからもらった野菜の束と土の種――を積み込んだ。村人たちが手を振る中、風が囁く。「この村、豊かだったね。次の道も安全だよ」

「行こう、ルッカ。次の町へ」

市場の賑わいと自然の声を背に、少年商人の旅は続く。


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