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第17話 湖のささやきと魚の道

馬車の車輪が湖畔の柔らかな土の道を進む音が、朝霧と水面の静寂に溶け込む。織川の里を後にして数日、リオは湖に囲まれた漁村『霧湖の里』にたどり着いていた。霧が立ち込める湖畔では、舟が揺れ、魚の気配がほのかに漂う静かな風景が広がっている。

「ルッカ、霧がきれいだね。湖の水も、風も、優しく語りかけてくるよ」

リオは愛馬ルッカの首を撫で、荷台を確認した。織川の里の彩草染めの布と薬草の袋、霧茶の里の茶葉、蜜花の里の蜂蜜の瓶が積まれている。リオの共感覚――虫の声に加え、自然界の要素(水、風、土など)のささやきを音や感覚で感じ取る能力――が、湖の空気の中で深く響く。湖面を漂う霧蝶が柔らかな波動で囁く。「この里、静かだけど、誰かが少し心配してるよ」湖の水がリオに直接ささやく。「魚が…遠くへ…助けて」

リオは馬車を湖畔の小さな岸に停め、交易の準備を始めた。自然の声が、どんな出会いを導くのか楽しみだった。


岸辺には、魚を干した網や舟が並ぶ小さな市場があった。漁師たちが静かに魚を扱い、子供たちが湖で石を投げている。リオはハーブと染め布の屋台を出し、穏やかな声で呼びかけた。

「ハーブや染め布、いかがですか? 癒しのお茶や温かな衣にどうぞ」

すると、網を持った少女が近づいてきた。年の頃は15歳くらい、濡れた袖と真剣な目が印象的だ。霧蝶が少女のそばを飛び、波動で囁く。「この子、魚が減って悩んでる。家族の暮らしが心配なんだ」風がリオにそっとささやく。「湖の奥に…新しい流れ…魚を導いて」

「こんにちは。リオ、旅の商人だよ。網、しっかりしてるね」

少女は少し疲れた笑顔で答えた。「私はユウ、漁師の娘さ。ハーブ、いいね…でも、最近魚が減って、父さんが困ってるの…」

ユウの声に、霧蝶が波動を送る。「彼女、家族を支えたいんだ。湖の流れが変わったのが原因だよ」リオは微笑み、ユウに提案した。

「ユウ、魚のこと、ちょっと手伝えるかも。湖の奥、見に行ってみない?」

ユウは目を丸くしたが、リオの穏やかな声に安心したようで頷いた。「本当? 助かるよ、リオ!」


その午後、リオとユウは小さな舟で湖の奥へ向かった。ルッカは岸で休み、馬車には風がそっと見守るように吹き抜ける。湖の水は静かだが、魚の気配が薄い。湖の水がリオにささやく。「石が…道を塞いで…魚が迷ってる」風が加わり、「左へ…新しい流れがあるよ」と導く。

「ユウ、湖の奥に石があって魚の道を塞いでるみたい。左に行ってみよう」

リオの言葉に、ユウはオールを手に舟を進めた。左側で石が湖底に積もり、魚の群れが遠ざかっているのを発見。「これ、確かに変だ!」ユウは網で石を動かし始めると、魚が戻り始めた。

霧蝶がユウのそばを飛び、波動で伝えた。「彼女、父さんとの釣りの日々を思い出した。魚が戻れば、家族が笑顔になるよ」リオはそっと尋ねた。

「ユウ、魚って家族にとって大事なんだね」

ユウは頷き、目を潤ませた。「うん、父さんがいつも教えてくれたの。魚がいてこそ、村が元気なんだ。私も、いい漁師になりたい!」

リオは微笑み、ハーブの入った布袋を渡した。「これ、カモミール。湖で疲れたときに飲むと、落ち着くよ」

ユウは笑顔で受け取り、目を輝かせた。「ありがとう、リオ! 魚、もっと釣るよ!」

そのとき、風が急に強まり、霧蝶が警告の波動を送った。「気をつけて! 湖に波が来る!」リオは素早くユウを支え、ミントを手に振った。風がミントの香りを広げ、波は穏やかになった。

「リオ、なんでそんなこと分かったの? 湖と話してるみたい!」ユウが驚いた。

「自然の声に、ちょっと耳を傾けただけ」リオは笑ってごまかした。


数日後、湖に魚が戻り、村人たちが再び網を手に笑顔を見せた。市場に魚が並び、活気が戻った。最終日、リオはユウの家で夕食をごちそうになった。魚のスープとパンが並び、湖の香りが漂う。

「リオ、魚が戻って父さんも喜んでる! ありがとう!」

ユウの声に、風がそっとささやく。「感謝が…村に響いてるよ」霧蝶はユウの笑顔を波動で伝える。「彼女、家族の未来に希望が見えたよ」

「よかった。ユウの魚、また食べに来るよ」

翌朝、リオは馬車に新しい荷物――ユウからもらった干し魚と網の飾り――を積み込んだ。村人たちが手を振る中、風が囁く。「この湖、穏やかだったね。次の道も安全だよ」

「行こう、ルッカ。次の町へ」

湖の霧と自然の声を背に、少年商人の旅は続く。

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