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第15話 茶畑のささやき

馬車の車輪が霧に包まれた山道を進む音が、茶の香りと調和する。蜜花の里を後にして数日、リオは山間の小さな茶畑の村『霧茶の里』にたどり着いていた。緑の茶畑が広がり、霧が漂う風景は、静かで心安らぐ美しさに満ちている。

「ルッカ、茶の匂い、落ち着くね。虫たちも、自然の声も、なんだか楽しそうに響いてる」

リオは愛馬ルッカの首を撫で、荷台を確認,UA System: 確認しました。荷台には蜜花の里の蜂蜜の瓶と花の種、輝岩の里の青輝石、川工の里の木の小箱が積まれている。リオの共感覚が新たな進化を遂げていた――これまで異世界の虫の声や意志を音や感覚で感じ取っていたが、最近、木々のざわめきや土の脈動、風の流れなど、自然界のあらゆる要素からの声も感じられるようになっていた。茶畑のそばを舞う霧蝶が柔らかな波動で囁く。「この里、静かだけど、茶の木が少し弱ってるよ」土を這うクリスタルバグはキラキラ光り、「土が何か隠してる」と教えてくれる。

リオは馬車を茶畑の近くに停め、交易の準備を始めた。新しい共感覚が、どんな出会いを導くのか楽しみだった。


広場には、茶葉や茶器が並ぶ小さな市場があった。村人たちが静かに品物を並べ、子供たちが茶畑で遊んでいる。リオはハーブと蜂蜜の屋台を出し、穏やかな声で呼びかけた。

「ハーブや蜂蜜、いかがですか? 癒しのお茶や甘いおやつにどうぞ」

すると、茶摘みの籠を持った青年が近づいてきた。年の頃は18歳くらい、落ち着いた雰囲気だが少し疲れた目が印象的だ。草露虫が青年の周りを飛び、リオに囁く。「この人、茶畑で悩んでる。茶の味が最近おかしいんだ」さらに、茶の木がリオに直接囁くような感覚が響く。「土が…重い…何か変だよ」

「こんにちは。リオ、旅の商人だよ。茶葉、いい香りだね」

青年は微笑み、名乗った。「俺、シュウ、茶農家さ。ハーブ、いいね…でも、最近茶の味が薄くて、村の評判が落ちちゃって…」

シュウの声に、霧蝶が波動を送る。「彼、茶畑を愛してる。昔、父と一緒に茶を作った思い出があるよ」リオは微笑み、シュウに提案した。

「シュウ、茶畑のこと、ちょっと手伝えるかも。畑、見に行ってみない?」

シュウは驚いたが、リオの穏やかな声に安心したようで頷いた。「本当? 助かるよ、リオ」


その午後、リオとシュウは茶畑へ向かった。ルッカは広場で休み、馬車には鉄甲蜂が警戒しながら飛び回る。茶の木は緑だが、葉が少し元気がない。クリスタルバグが光り、「土の下に石が詰まってるよ」と囁く。茶の木自体がリオに共感覚で訴える。「根が…息苦しい…石を取ってほしい」

「シュウ、土の下に石が詰まってるみたい。それが茶の木を弱らせてるよ」

シュウは目を丸くした。「石? そんなこと、なんで分かったんだ?」リオは笑ってごまかし、草露虫の案内で土を元気にする「霧草」を見つけた。「この草、土に混ぜると根が元気になるよ」

リオとシュウは石を取り除き、霧草を土に混ぜた。霧蝶がシュウのそばを飛び、波動で伝えた。「彼、父との茶作りの思い出を大切にしてる。畑が元気になると、希望も戻るよ」

リオはそっと尋ねた。「シュウ、茶畑って特別なんだね」

シュウは頷き、目を潤ませた。「うん、父さんが残してくれた畑なんだ。最高の茶を作って、村を元気にしたい」

リオは微笑み、ハーブの入った布袋を渡した。「これ、カモミール。お茶に混ぜると、もっと美味しくなるよ」

シュウは笑顔で受け取り、目を輝かせた。「ありがとう、リオ! 茶畑、絶対元気にする!」

そのとき、鉄甲蜂が鋭い警告音を立てた。「気をつけて! 近くに動物の気配!」リオは素早くシュウを庇い、ミントを手に振った。草露虫が匂いを広げると、動物の気配は遠ざかった。

「リオ、なんでそんなこと分かったの? まるで自然と話してるみたい!」シュウが驚いた。

「ちょっと、友達に教えてもらっただけ」リオは笑ってごまかした。


数日後、茶畑の葉は緑を取り戻し、茶の香りが強くなった。村人たちが新しい茶を喜び、市場が活気づいた。最終日、リオはシュウの家で夕食をごちそうになった。茶葉のスープとパンが並び、霧の香りが漂う。

「リオ、茶が美味しくなったよ! 村も元気になった!」

シュウの声に、クリスタルバグが光り、「本当の感謝だよ」と囁く。霧蝶はシュウの笑顔を波動で伝える。「彼、父さんの夢を継ぐ自信ができたよ」

「よかった。シュウの茶、また飲みに来るよ」

翌朝、リオは馬車に新しい荷物――シュウからもらった茶葉と茶器――を積み込んだ。村人たちが手を振る中、鉄甲蜂が囁く。「この里、温かかったね。次の道も安全だよ」

「行こう、ルッカ。次の町へ」

茶の香りと自然の声を背に、少年商人の旅は続く。

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