第13話 鉱石の輝き
馬車の車輪が岩だらけの山道を進む音が、静かな谷間に響く。川工の里を後にして数日、リオは山奥の小さな鉱石の村『輝岩の里』にたどり着いていた。岩壁に囲まれた集落では、掘り出された宝石や鉱石が陽光にきらめき、静かな美しさが漂っている。
「ルッカ、鉱石の輝き、きれいだね。虫たちも岩の間で楽しそうに飛んでるよ」
リオは愛馬ルッカの首を撫で、荷台を確認した。川工の里の木の小箱と樹力草、風草の里の羊毛の布、果香の丘のリンゴのジャムが積まれている。リオの共感覚――異世界の虫の声や意志を音や感覚で感じ取り、対話する能力――が、山の空気の中で澄んだ音を響かせる。岩の隙間に舞う霧蝶が柔らかな波動で囁く。「この村、静かだけど、誰かが少し悩んでるよ」岩場を這うクリスタルバグはキラキラ光り、「良質な鉱石が見つからなくて困ってる」と教えてくれる。
リオは馬車を村の小さな広場に停め、交易の準備を始めた。虫たちの声が、どんな出会いを導くのか楽しみだった。
広場には、鉱石や宝石を磨いた工芸品が並ぶ市場があった。鉱夫たちが静かに品物を並べ、子供たちが磨かれた石で遊んでいる。リオはハーブと木の小箱の屋台を出し、穏やかな声で呼びかけた。
「ハーブや木工品、いかがですか? 癒しのお茶や小さな宝物にどうぞ」
すると、鉱石の入った袋を持った少年が近づいてきた。年の頃は15歳くらい、埃まみれの手と真剣な目が印象的だ。草露虫が少年の周りを飛び、リオに囁く。「この子、鉱石探しで悩んでる。家族に贈る宝石を見つけたいんだ」
「こんにちは。リオ、旅の商人だよ。鉱石、きれいだね」
少年は少し照れながら答えた。「俺、ソウタ、鉱夫見習いさ。ハーブ、いい匂いだな…でも、最近いい鉱石が見つからなくて、母さんの誕生日に贈る宝石が作れないんだ…」
ソウタの声に、霧蝶が波動を送る。「彼、母さんを喜ばせたいんだ。良質な鉱石、岩壁の奥にあるよ」リオは微笑み、ソウタに提案した。
「ソウタ、鉱石のこと、ちょっと手伝えるかも。岩壁の奥、行ってみない?」
ソウタは目を丸くしたが、リオの穏やかな声に安心したようで頷いた。「本当? 助かるよ、リオ!」
その午後、リオとソウタは岩壁の奥へ向かった。ルッカは広場で休み、馬車には鉄甲蜂が警戒しながら飛び回る。岩壁の奥は薄暗く、岩の隙間が続く。クリスタルバグが光を放ち、リオに囁く。「青輝石、岩の奥に隠れてるよ。キレイな宝石になる」草露虫が囁く。「岩の近くに、鉱石を守る草もあるよ」
「ソウタ、この辺にいい鉱石があるみたい。掘ってみよう」
リオの言葉に、ソウタはツルハシを手に岩を叩き始めた。すると、青く輝く青輝石が現れた。「すげえ! これ、母さんにぴったりだ!」ソウタは目を輝かせ、丁寧に石を掘り出した。
リオはさらに、草露虫の案内で「岩守草」を見つけ、ソウタに渡した。「これ、鉱石の周りに植えると、虫食いを防ぐよ」
そのとき、霧蝶がソウタのそばを飛び、波動で伝えた。「彼、母さんの笑顔を想像してワクワクしてるよ。家族の絆が大事なんだ」リオはそっと尋ねた。
「ソウタ、母さんの誕生日、楽しみだね」
ソウタは少し照れながら頷いた。「うん、母さん、いつも頑張ってるから。キレイな宝石、喜んでくれると思う!」
リオは微笑み、ハーブの入った布袋を渡した。「これ、カモミール。作業の後にお茶でリラックスしてね」
ソウタは笑顔で受け取り、目を輝かせた。「ありがとう、リオ! 母さんの誕生日、最高にするよ!」
そのとき、鉄甲蜂が鋭い警告音を立てた。「気をつけて! 岩の上で小動物の気配!」リオは素早くソウタを庇い、ミントを手に振った。草露虫が匂いを広げると、小動物の気配は遠ざかった。
「リオ、なんでそんなこと分かったの? まるで魔法だ!」ソウタが驚いた。
「虫の友達にちょっと教えてもらっただけ」リオは笑ってごまかした。
その夜、リオはソウタの家で夕食をごちそうになった。石造りの家で、鉱石の飾りが光る中、野菜のスープとパンが並ぶ。ソウタの母が感謝の言葉を重ねた。
「リオ、ソウタがいい鉱石を見つけられたよ。ありがとう!」
ソウタは笑顔で言った。「リオ、最高! また鉱石掘りに来てな!」
「うん、約束する。ソウタの宝石、楽しみにしてるよ」
クリスタルバグが光り、「本当の感謝だよ」と囁く。霧蝶はソウタの笑顔を波動で伝える。「彼、母さんとの絆が強まったよ」
翌朝、リオは馬車に新しい荷物――ソウタからもらった小さな青輝石と岩守草――を積み込んだ。村人たちが手を振る中、鉄甲蜂が囁く。「この村、輝いてたね。次の道も安全だよ」
「行こう、ルッカ。次の町へ」
鉱石の輝きと虫たちの声を背に、少年商人の旅は続く。