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第11話 草原の風と羊の道

馬車の車輪が広々とした草原の道を進む音が、そよぐ風と調和する。果香の丘を後にして数日、リオは果てしなく広がる草原の集落『風草の里』にたどり着いていた。羊の群れがのんびり草を食み、遊牧民のテントが点在する風景は、自由と安らぎに満ちている。

「ルッカ、風が気持ちいいね。虫たちも草原で楽しそうに飛んでるよ」

リオは愛馬ルッカの首を撫で、荷台を確認した。果香の丘のリンゴのジャムと果樹の苗木、湖鏡の村の魚の干物、雪花の里のマフラー、隠葉の里の薬草が積まれている。リオの共感覚――異世界の虫の声や意志を音や感覚で感じ取り、対話する能力――が、草原の空気の中で軽やかに響く。草の間を舞う霧蝶が柔らかな波動で囁く。「この里、自由だけど、誰かが少し困ってるよ」草むらを這うクリスタルバグはキラキラ光り、「羊の群れが迷ってる」と教えてくれる。

リオは馬車をテントの近くに停め、交易の準備を始めた。虫たちの声が、どんな出会いを導くのか楽しみだった。


集落の広場には、遊牧民たちが羊毛や乳製品を並べた簡素な市場があった。風に揺れる草と羊の鈴の音が響き、子供たちが羊を追いかけて笑う。リオはハーブとジャムの屋台を出し、穏やかな声で呼びかけた。

「ハーブやリンゴのジャム、いかがですか? 癒しのお茶や甘いおやつにどうぞ」

すると、羊を追う少女が近づいてきた。年の頃は14歳くらい、色鮮やかな布の服と風になびく髪が印象的だ。草露虫が少女の周りを飛び、リオに囁く。「この子、羊のことで悩んでる。群れが草地を離れて戻らないんだ」

「こんにちは。リオ、旅の商人だよ。ジャム、試してみる?」

少女は笑顔で答えた。「私はサラ、遊牧民の娘だよ! ジャム、美味しそう…でも、最近羊が草地から離れて、父さんが困ってるの」

サラの声に、霧蝶が波動を送る。「彼女、家族の羊を大事にしてる。草地が枯れて、羊が別の場所に行ってるよ」リオは微笑み、サラに提案した。

「サラ、羊のこと、ちょっと手伝えるかも。草地、見に行ってみない?」

サラは目を輝かせ、すぐに頷いた。「本当? うれしい! 行こう、リオ!」


その午後、リオとサラは草原の奥へ向かった。ルッカは広場で草を食べ、馬車には鉄甲蜂が警戒しながら飛び回る。いつもの草地は確かに草が薄く、羊の姿はまばらだ。クリスタルバグが光を放ち、リオに囁く。「新しい草地、丘の向こうにあるよ。羊はそこに移動してる」草露虫が囁く。「風草、羊が好きな草だよ。丘の向こうにいっぱいある」

「サラ、丘の向こうにいい草地があるみたい。羊、そっちにいるかも」

リオの言葉に、サラは驚きながらもついてきた。丘の向こうには、緑豊かな草地が広がり、羊の群れがのんびり草を食んでいた。「やった! 見つけた!」サラは笑顔で羊に駆け寄った。

そのとき、霧蝶がサラのそばを飛び、波動で伝えた。「彼女、父さんと羊を守るのが夢。新しい草地で家族が元気になるよ」リオはそっと尋ねた。

「サラ、羊って家族にとって大事なんだね」

サラは少し照れながら頷いた。「うん、父さんが若い頃から育ててきた羊なの。私もいつか、最高の羊飼いになりたい!」

リオは微笑み、ハーブの入った布袋を渡した。「これ、ミントとカモミール。草地に撒くと、羊が落ち着くよ」

サラは笑顔で受け取り、目を輝かせた。「ありがとう、リオ! 羊、もっと元気になるよ!」

そのとき、鉄甲蜂が鋭い警告音を立てた。「気をつけて! 草むらに狼の気配!」リオは素早くサラを庇い、ミントを手に振った。草露虫が匂いを広げると、狼の気配は遠ざかった。

「リオ、なんでそんなこと分かったの? すごいよ!」サラが驚いた。

「虫の友達にちょっと教えてもらっただけ」リオは笑ってごまかした。


その夜、リオはサラのテントで夕食をごちそうになった。羊乳のスープと焼きたての平パンが並び、草原の温かさが漂う。サラの父や家族が感謝の言葉を重ねた。

「リオ、羊が戻ってきて助かった! お前のおかげだ!」

サラは笑顔で言った。「リオ、最高! また羊見に来てね!」

「うん、約束する。サラの羊、楽しみにしてるよ」

クリスタルバグが光り、「本当の感謝だよ」と囁く。霧蝶はサラの笑顔を波動で伝える。「彼女、夢に近づいたよ」

翌朝、リオは馬車に新しい荷物――サラからもらった羊毛の布と乳チーズ――を積み込んだ。遊牧民たちが手を振る中、鉄甲蜂が囁く。「この草原、自由だったね。次の道も安全だよ」

「行こう、ルッカ。次の町へ」

草原の風と虫たちの声を背に、少年商人の旅は続く。


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