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第10話 果樹園の秋

馬車の車輪が乾いた土の道を進む音が、秋の風と混ざり合う。湖鏡の村を後にして数日、リオは丘の上に広がる果樹園の集落『果香の丘』にたどり着いていた。リンゴや梨の木が色づき、甘い香りが漂う風景は、秋の豊かさに満ちている。

「ルッカ、いい匂いだね。虫たちも果物の香りにワクワクしてるよ」

リオは愛馬ルッカの首を撫で、荷台を確認した。湖鏡の村の魚の干物と籐の籠、雪花の里のマフラー、隠葉の里の薬草が積まれている。リオの共感覚――異世界の虫の声や意志を音や感覚で感じ取り、対話する能力――が、果樹園の空気の中で軽やかに響く。果樹の枝に舞う霧蝶が柔らかな波動で囁く。「この丘、豊かだけど、誰かが少し心配してるよ」果実の陰を這うクリスタルバグはキラキラ光り、「果樹が少し弱ってる」と教えてくれる。

リオは馬車を丘のふもとに停め、交易の準備を始めた。虫たちの声が、どんな出会いを導くのか楽しみだった。


集落の広場には、果物やジャムが並ぶ小さな市場があった。村人たちがリンゴを手に笑い合い、子供たちが果樹園で走り回る。リオはハーブと魚の干物の屋台を出し、穏やかな声で呼びかけた。

「ハーブや干し魚、いかがですか? お茶や料理にどうぞ」

すると、果物の籠を持った少女が近づいてきた。年の頃は13歳くらい、編んだ髪と明るい笑顔が印象的だ。草露虫が少女の周りを飛び、リオに囁く。「この子、果樹園のことで悩んでる。収穫が減って、夢が遠ざかってるんだ」

「こんにちは。リオ、旅の商人だよ。果物、美味しそうだね」

少女は笑顔で答えた。「私はリン、果樹園で働いてるの! ハーブ、いい匂いだね…でも、最近果樹が元気なくて、収穫が減っちゃって…」

リンの声に、霧蝶が波動を送る。「彼女、果樹園を継ぐのが夢。果樹の病気、土が原因だよ」リオは微笑み、リンに提案した。

「リン、果樹のこと、ちょっと手伝えるかも。果樹園、見に行ってみない?」

リンは目を輝かせ、すぐに頷いた。「本当? うれしい! 行こう、リオ!」


その午後、リオとリンは果樹園へ向かった。ルッカは広場で休み、馬車には鉄甲蜂が警戒しながら飛び回る。果樹園の木々は実をつけているが、葉が黄色く、元気がない。クリスタルバグが光を放ち、リオに囁く。「土が疲れてるよ。近くの谷に、土を元気にする草がある」草露虫が囁く。「星果草だよ。果樹にぴったり」

「リン、土を元気にする草が近くにあるみたい。谷まで行ってみよう」

リオの言葉に、リンは驚きながらもついてきた。谷の奥で、星のように輝く星果草を見つけた。リオは草を摘み、リンと一緒に果樹園の土に混ぜた。草露虫が囁く。「これで木が元気になるよ」

そのとき、霧蝶がリンのそばを飛び、波動で伝えた。「彼女、果樹園を継ぐ夢を諦めそうだったけど、希望が戻ってきたよ」リオはそっと尋ねた。

「リン、果樹園って特別なんだね」

リンは少し照れながら頷いた。「うん、父さんが大事にしてた果樹園なの。私もいつか、最高の果物を作りたいって思ってる!」

リオは微笑み、ハーブの入った布袋を渡した。「これ、ミントとカモミール。木のそばに植えると、虫除けにもなるよ」

リンは笑顔で受け取り、目を輝かせた。「ありがとう、リオ! 果樹園、絶対元気にする!」


数日後、果樹園の木々は少しずつ緑を取り戻し、実が輝き始めた。村人たちが再び収穫に笑顔を見せ、市場が活気づいた。最終日、リオはリンの家で夕食をごちそうになった。リンゴのジャムと焼きたてのパンが並び、秋の温かさが漂う。

「リオ、果樹園が元気になってきた! ありがとう!」

リンの声に、クリスタルバグが光り、「本当の感謝だよ」と囁く。霧蝶はリンの笑顔を波動で伝える。「彼女、夢に近づいたよ」

「よかった。リン、最高の果物、楽しみにしてるよ」

翌朝、リオは馬車に新しい荷物――リンからもらったリンゴのジャムと果樹の苗木――を積み込んだ。村人たちが手を振る中、鉄甲蜂が囁く。「この丘、甘い香りだったね。次の道も安全だよ」

「行こう、ルッカ。次の町へ」

果物の香りと虫たちの声を背に、少年商人の旅は続く。

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