シルヴィ (2)
「ほら、90ゴールドだ。」
「え?」
何を言っているのか分からず、首をかしげた。
「95ゴールド。これ以上は無理だ。食いちぎられた跡もあるし、潰れて土もついてるだろ?お前だから少し上乗せしてやってるんだ。」
これ以上ぐずぐずしていると気が変わるかもしれないと思い、残念そうな顔をしてから、
「少なすぎますけど…」
と言って、了承した。
「95ゴールドか…」
一生のうちに、こんな大金にまた触れることができるだろうか?ポケットに95ゴールドも入っていることが、どうしても信じられなかった。冒険者ギルドへ行ってオーキッド・マンティスの脚を渡すと、そこでさらに30ゴールドを受け取った。ルベリスを好むオーキッド・マンティスは、錬金術師たちにとっては駆除対象であり、高額な懸賞金がかけられていたからだ。合計125ゴールド。その金が俺のポケットに入っていた。
「この世の全ての金が俺の手の中に…」
とりあえず、前から食べたかったステーキというものを食べに酒場へ向かった。
「何?ステーキ?金はあんのか?」
「ここに。」
ゴールドを一枚取り出した。
「はぁ?」
90シルバーのお釣りを受け取り、椅子の上で足をぶらぶらさせながらステーキを待った。その時になってようやく周りを見渡すと、俺を見て笑っているおじさんたちがいた。
そして、酒場の陽気な雰囲気の中、一人で座ってステーキを食べる俺がいた。限りなく自分が小さく感じながら待った。
「ほらよ。」
待っていたステーキが出てきた。肉の塊に塩を振ったものをステーキと呼ぶらしい。美味しそうに見えたが、思ったより味はなかった。まず硬いし、香辛料の香りで獣臭さを消してはいるものの、それでも獣臭さがひどかった。「ステーキに獣臭さ?本来そういうものなのか?」聞いていた話とはだいぶ違った。適当に食べ終え、もうすぐ始まる母さんとの戦いを頭の中でイメージトレーニングしながら家に向かった。
その途中、もう一度125ゴールドを確認した。正確には124ゴールド90シルバー。まだ夢か現実か区別がつかなかった。
「母さんさえいなければ、土もつかずに十分もっともらえたはずなのに…」
「ちっ。」
森に入れば、もっとこういうのがあるだろう。世間知らずの母さんに、ガツンと言ってやらなきゃ。俺が正しくて、母さんが間違っている。このポケットに入っている金がその証拠じゃないか。どうすればあの愚かで頑固な母さんに思い知らせることができるか、思案した。そしてその末にあったのは、強硬手段だった。この金があれば、十分に家を出て暮らしていけるだろうから。
ドアを蹴破って入った。
「んん!」
「シルヴィ、帰ったのかい?こっちへ来てお座り。さっきは母さんが…」
「もういいです。明日からは森に入るから、邪魔しないでください。」
「何ですって???」
「今日は疲れたから、先に寝ます。」
俺はベッドに上がって、布団を頭の上まで上げた。
「お前…お前、なんて口の利き方だい!こっちへ来ないか!」
ドン!ドン!ドン!という音が聞こえてくるのを感じながら、来るべき口論のために深呼吸をした。しかし、俺の予想とは裏腹に、母さんは俺の布団の上に乗り上がって、めちゃくちゃに拳を振り回してきた。
バキッ!バキッ!バキッ!バキッ!
「や…やめて。」
このままでは死ぬ。
「もうやめろって!!」
体を起こして母さんを突き飛ばすと、そのまま横に転がり落ちた。
ポケットに入っていた金が、チャラララという音を立てて一緒に床に落ちた。
「あなた!!!シルヴィが…うわーん、シルヴィがあたしを!!!あたしを!」
母さんが床を叩くと金がチャリンと鳴り、その音に母さんは顔を上げて金を確認した。
「あんた、これは何だい?まさか盗んだのかい?」
母さんの目がギラリと光った。
「さっきのオーキッド・マンティスの脚とルベリスを売ってもらったんです。母さんさえいなければ、もっともらえたんですよ!」
「ふぅん…」
本気だと感じたのか、疑いの眼差しを消すと、椅子を支えに体を起こし、椅子の上に座った。
「こっちへ来てお座り。」
母さんの理性を取り戻させ、席まで勧めさせるとは、やはり金の力は絶大だった。
「けほっ。眠いんですけど…」
「すぅ…」
「あいたたた…」
とりあえず椅子に座った。
「はぁ…まずは話を聞こうか。どうしてそんなに外に出たくてたまらないんだい?」
「父さんだって、農業をしていて亡くなったじゃないですか!」
「…」
母さんはしばらく黙っていた。
「そうね。でも、それは外で農業をしていて亡くなったんでしょう?今度は中で土地を買おうって話よ。」
「そんなことして、いつ金が貯まるんですか。一生奴隷みたいに生きなきゃいけないんですよ!あの金を見たでしょう?」
「いいや…あれは、あんたが今回運が良かっただけよ。生き残ったこと自体が奇跡みたいなものだし。森に入ったら、ゴールドが地面に転がってると思うのかい?絶対にそんなことはないわ。みんなが森に入らないのは、馬鹿だからだと思う?」
「それでも僕は出てみたいんです。農業なんかして生きたくない!」
「…はぁぁ。」
母さんが立ち上がると、床の一部分を持ち上げた。
驚いたことに、その中には細長い箱が入っていた。
チャリンという音が聞こえるから、金のようだった。
箱を開けると、中には割れた剣とゴールドが入っていた。
「これは、あんたのお父さんが使っていた剣よ。昔、モンスターの襲撃があった時、時間を稼ぐために一人でグルーヴァと戦ったの。あの人の腕でも一匹で手一杯だったはずなのに、後で見に行ったら3匹も死んでいたわ。そして、これが371ゴールド。この金でコンラッドさんの所へ行って、剣を修理してもらって、防具も新調しなさい。」
「母さん…」
「もういい。おやすみ。」
寝床についてしばらくした後、
母の小さな声が聞こえてきた。
「あなた…どうか、私たちのシルヴィを守ってください。」
日が昇ると、母さんはすでに出勤しているようだった。魔石に火をつけ、玉ねぎスープを沸かし、飲むように食べて家を出た。いよいよ、本当の冒険が始まる。今日はどれくらい稼げるだろうか、期待に胸が膨らんだ。まずは母さんの言う通り、鍛冶屋のコンラッドのところへ行った。
「ほう…これはゲリオンが使っていた剣じゃないか…」
コンラッドは驚いた目で剣を見た後、俺に目を向けた。
「はい、修理して使おうと思って。」
なぜコンラッドが俺をそんな目で見つめるのか分からなかったが、深く考えずに答えた。
「そうか…」
コンラッドは剣を見つめながら、しばらく黙っていた。
「2日後にまた来い。」
「鎧も少し買いたいのですが。」
持っている金を全部見せた。
「うーん…どうせ体は大きくなるから、今は鎖帷子にして、兜と腕当てだけ新しくしようか。50ゴールドでいい。」
コンラッドはすぐに寸法を調整してくれた。
防具は手に入れたが、まだ剣がなかったので、森へは剣を新調してから入ることにした。
数日後、再び鍛冶屋に立ち寄った。
「ほら、これだ。一度持ってみろ。」
思ったよりずっと大きくて重かった。黒い刀身に白くうねる波模様が見え、ほのかに光沢を放っていた。話に聞いていたプラメンティルの長剣は、聞いていたよりずっと重かった。もう少し大きくなれば、ちょうどいい感じになりそうだ。
「わあ…」
「気に入ったか?刃の角度も45度にしたから、もう二度と折れることはないだろう。」
「はい!ありがとうございます。」
「100ゴールドだ。」
「はい!」
剣を手に取り、すぐに森へ入った。夢と希望の地に足を踏み入れると、風に乗って草の香りがふわりと漂ってきた。
「今日はどれくらい稼げるかな」
許可は得たものの、森の奥深くまでは入れなかった。念願の森に入ったのに、ルベリスの一つも見つからなかった。
「思ったよりずっと違うな…」
結局時間切れで、何の収穫もなく森を出た。
予想とは裏腹に、何の収穫もなく、力なくとぼとぼと家に帰ると、母さんは今日いくら稼いだか尋ねるよりも、剣を見て驚き、値段を尋ねた。値段を聞いた後、財布を取り出してコンラッドのところへ走っていった。何があったのかは分からないが、コンラッドおじさんに大きな借りがあるから、その借りを忘れてはならないとだけ言った。よく分からないが、金を持って出て行って、また戻してくるのを見ると、もう少し代金を払わなければならなかったようだった。
そうして1年が過ぎた。
以前よりルベリスを少し多く見つけるようにはなったが、それだけだった。思ったより収入は増えなかった。以前と比べると1.5倍?考えてみれば半分も増えたのだが、一度に100ゴールド以上稼いだ記憶があるせいか、その味がどうにも忘れられなかった。そして、モンスターも何匹か倒してみて自信がつくと、うずうずし始めた。
「冒険者ギルドにでも行ってみようか?」
ここ数ヶ月、ずっとそんなことを考えていた。そしてついに今日、冒険者ギルドに行ってみた。思ったよりずっと大きな規模に圧倒されたが、とりあえず警備のおじさんたちに言われた通り、冒険者登録をして9等級をもらった。登録証を発行してもらった後、掲示板のようなところにびっしりと何かが貼ってあったので、ざっと目を通した。採集依頼の中には、一つ二つ見覚えのあるものがあった。
「ルベリスもあるな。ほとんどゴブリンか。」
ゴブリンなら何回か倒したことがあるので自信があった。しかし、たかがゴブリンを倒すだけで報酬が80ゴールドとは?最初は採集依頼をよく見ておこうと思ったが、ゴブリン討伐依頼を見てからは、そんな気はすっかり失せてしまった。こんなおいしい話がここにあったとは。やはり来てみて良かった。しかし、何匹もいると危険かもしれないので、とりあえずパーティーメンバーを募集しているところに行ってみた。
9等級冒険者…8等級冒険者…ざっと見てみたが、9等級冒険者の中に魔法使いがいるところは珍しかった。それに、ほとんどは採集を希望していた。
「採集なら一人でやった方がいいんじゃないか?」
討伐パーティーの中に、年頃の近い二人がいるところが目についた。
9等級冒見者で、それぞれ11歳と12歳。いい友達になれるかもしれないと思い、彼らに会ってみることにした。
『マリア百科事典』より
人間とモンスターを分かつ根本的な違いは、魔石の有無にある。
空気中には目に見えない特別なエネルギーが分布しており、モンスターはこのエネルギーを体内に蓄積して魔石を作り出すが、人間はエネルギーを血液の中に溶け込ませる。この過程は人間の成長速度を促進させ、時には気力や魔力の源ともなる。
このエネルギーの存在を初めて究明した科学者ゴルゴンは、自身の名にちなんでそれを「ゴルゴン・エネルギー」と命名した。彼は空気を圧縮させて爆発を起こす実験によってその存在を証明し、これに関する詳細な術式を残そうとした。しかし、当時弟子たちに残した記録には余白が足りず、「ここまで書き、続きは次回にする」と記されていたが、その残りは彼の故郷へ向かう船と共に海の底へと消えた。彼が残した秘密は、今なお謎として残されている。