シルヴィ
一人の女が赤ん坊を胸に抱き、堀にかかる橋を渡って城の中へと入ろうとしていた。
「走れ!もうすぐ橋が上がるぞ!」
警備兵が切羽詰まった声で、前にいる人々を見ながら叫んだ。
「だめ!夫がまだ!」
警備兵たちは彼女の言葉に答えず、ただ円形の手すりのようなものを回して橋を上げ始めた。残された人々はその跳ね橋に力の限り飛びつき、力及ばず登りきれずに橋にぶら下がる者もいた。引き上げてやれそうなものだったが、かろうじて橋の上に登った人々には他人を助ける余裕などなかった。阿鼻叫喚の中、何人かはそのまま橋の下の堀に落ちて「ドブン!」と音を立て、また何人かは幸運にも橋の内側に滑り込み、門の中に入って助かった。
そしてその後ろでは、果てしなく高い城壁をモンスターたちが這い上がっていた。実に70メートルにも達する巨大な城壁。そしてその内側には100メートルにも及ぶ内壁が存在した。しかし、モンスターはその城壁に怯むことなく這い上がった。
赤ん坊の母親は、固く閉ざされた門を呆然と見つめていたが、やがて赤ん坊に目を落とし、彼が最後に残した言葉を思い出した。
「まずはシルヴィを連れて逃げろ、俺が時間を稼ぐ!シルヴィ…本当にすまない…」
「必ず生きて帰ってきて!」
「心配するな、早く行け!」
しかし、彼は戻らなかった。後で村に戻った時、彼女は砕けた剣だけを持って帰ってきた。
『マリア百科事典』より
ゴブリンは生後5ヶ月、オークは生後3年、獣人は生後7年、そして人族は生後10年、遅くとも13年で成長を終える。
人族の成長速度が遅い理由は何だろうか。
生まれてすぐに歩き始めるゴブリンや、我々よりはるかに体の大きい中央大陸に生息する象という動物を見れば、単に体の大きさと成長速度が比例しないことが確認できる。成長速度が理由でないとすれば、我々人族は彼らと何が違うのか。それは知能である。
知能とは何か。
このような推論を通じて理論を確立し、実験を通じて証明する作業ができる能力を知能と言うことができる。また、このような理論を検証するために実験を行い、その結果を集めたものを知識と言うことができる。人族はこのような知識を最も蓄積した種族として、セレスの他の全ての種族を治め、彼らの野蛮な行動を矯正し、知識を伝播するという神聖な使命を持っている。
ある者たちはこれを 두고、百年以上成長するエルフたちを見て、我々より知能が高いのではないかという愚かなことを言うが、これはただ人族だけが神の恩寵がただ人間にのみ下されたという証拠であると言える。自分たちが木から生まれた存在だと信じ、未だに木の葉などを編んで身を覆って暮らす原始的な部族が、人間より知能が高くないということは、一定水準の知能を備えた者なら誰でも推論できる事実だからである。また、このような人物100人を調査した結果、幼い頃の成長速度が非常に速かったという証言を得ることができた。
10年後。
「おっ!見つけた!今日は運がいいな…」
[ルベリス・コリヌス]
ポーションを作るのに使われる赤い実のようなもので、聞くところによるとトロールの血と何かを混ぜて作られるという。一つ1ゴールドもするこれが、我が家の主な収入源だ。父さんが村に押し寄せるモンスターを防いだ功績を認められ、母さんは村の中央に家をもらい、城壁警備で月に50シルバーを受け取ってはいたが、その金だけでは口を糊するのもやっとだった。それにもかかわらず、母さんは夜明けと共に家を出ては、毎日城壁の上を掃き清めていた。誰に頼まれたわけでもないのに、理解しがたいことだった。
血を吸って育つというルベリス・コリヌス。
土の中で長く留まり、一日か二日で花を咲かせた後、「プツッ!」と弾けて実を散らし枯れてしまうため、モンスターから採れる素材でもないのに高価だった。それでも、ここ外壁の近くではモンスターがたくさん死ぬので、比較的よく見かけることができた。
初めの頃はよく見かけたが、最近では二ヶ月に一つ見つかるかどうかで、そろそろこれまで貯めた金でもう少し良い武器を買い、外に出てみるべきではないかと考えていた。しかし、母は病的なほどに俺が外に出るのを嫌がった。そのため、城壁の周りを回ることの許可を得るのさえ本当に大変だった。「でも…。このままじゃだめだ。決断を下さないと。」
「母さん…最近、ルベリスがほとんど見つからないんだ。」
「…またその話かい?」
「でも、いつまでも僕が何もしないわけにはいかないでしょ?もう城壁の近くのルベリスは根絶やしだよ。」
「…」
「心配しないで、母さん。僕ももう10歳だし、ある程度は戦える。」
「シルヴィ。あんたはまだモンスターと戦ったことがないからそう言うんだ。あんたのお父さんは気を自在に操れたのに、モンスターと戦って死んだんだよ…。一体あんたに何ができるって言うんだい?こつこつ少しずつお金を貯めて、村の中で農業でもしよう。」
「今すぐモンスターを討伐しに行くって言ってるわけじゃないじゃないか。ただ、もう少し遠くまで見てみるって言ってるだけだよ。」
「もういい。この話はこれでおしまい。絶対にだめだ。」
「ちくしょう。あの農業め。父さんの腕なら、真面目に狩りをしていれば、間違いなく村の内側で暮らせたはずなのに…」
胸の中に不満が募ったが、静かに寝床についた。
その後もずっとルベリスを探し続けたが、何の収穫もなかった。夜通し雨が降ったのか、まだ霧が晴れず視界が狭い。ぬかるんだ地面のせいで歩きにくい。ぬかるんだ地面に足跡を刻みながら、どれくらい歩いただろうか。霧がかった森の中で、何やらピンク色のものが見えた。今まで一度も見たことのない大きさ!時々大きなルベリスがあると聞いてはいたが、森の中に入ってはいけない。母との約束は、木がある場所には入らないということだった。
「どうしよう…。ちょっとくらいなら大丈夫かな?」
ずいぶん悩んだが、やはり逃すには惜しい機会だった。
-シャリン-
結局、剣を抜いて近づいた。周りの草を踏むと、サクサクと音を立て、葉の上の水滴が飛び散って体を濡らした。
「それにしても…でかすぎないか?」
もう少し近づくと、ピンク色のものがわずかに動いた。
「なんだ??」
さらに近づいてよく見ると、その大きなものはルベリスではなかった。
「オーキッド・マンティス!?」
オークやゴブリンよりも強いと聞いていたが…。オーキッド・マンティスが大きなルベリスを食いちぎっている最中で、こちらに目を向けた。ピンク色の花びらが体中に覆いかぶさったようなカマキリ。その圧倒的な大きさと姿に、逃げようかという考えが頭をよぎったが、目の前のルベリスの大きさは、その危険を冒す価値があると思わせた。
「あの大きさのルベリスなら、きっと30ゴールドはするだろうな…」
オーキッド・マンティスは動かずに俺を見つめ、鎌のような腕を折りたたみ、胴体を後ろに引いていた。まっすぐに立った時の大きさは俺と変わらないが、しょせんは昆虫だ。覚悟を決め、距離を保ちながら周りを回った。オーキッド・マンティスはその場で向きを変え、じっと俺を見つめていた。そして突然、腕を伸ばして突進してきた。
腕輪にマンティスの腕が当たると、「ガキィン!!」という音がした。
「うわっ!!」
ある程度は避けたものの、腕輪が軽く引きちぎられ、腕まで食い込んで肉を抉り取られた。俺のたった一つの大切な鎧がめちゃくちゃになった。腕輪がマンティスの前足の棘のような部分に引っかかり、抉り取られた俺の肉片と共にぶら下がっていた。右腕の出血がひどすぎる。耐え難い痛みに剣を左手に持ち替え、再びマンティスを見つめた。先ほどとは違い、心臓が狂ったように鼓動し始めた。マンティスは自分の腕?前足?の棘の部分についた肉片を食いちぎっていた。
「まさか…」
射程を広げ、スリングを取り出した。俺を追う気もなく、肉片を食いちぎっていた。「やっぱり虫は虫か…」
-ブンブンブンブン ヒュッ~
ドスッ!
マンティスは静かに俺を見つめた。もう一度。
ドスッ!
そろりそろりと俺に近づき始めた。
もう一発。
ドスッ!
運良く頭に当たった。マンティスはダメージを受けたのか、少しよろめいた。すると突然、体をかがめ、翼を広げて突進してきた。
「うおおおおおっ!!!!」
後ろに走りながら、木をぐるりと回った。再び着地したマンティスが木をぐるりと回った。
「逃げても捕まる。」
翼を広げると想像以上に速かった。木を背にして目を向けると、木の外に突き出たマンティスの鋭い前足が見えた。マンティスに捕まり、あの鋭い棘に刺されてもがきながら、ゆっくりと食いちぎられ、内臓までずるずると流れ出す自分の姿が目に浮かび始めると、震える体を抑えることができなかった。
「おぞましい…」
しかし、逃げることもできない状況。逃げるつもりなら、スリングを振り回す前に逃げるべきだった。すでにゴールデンタイムは過ぎている。怖いからといってこの機会を逃せば、非常に高い確率で死ぬことは明らかだった。体は震えていたが、剣を握り直した。そして、これまで兵士のおじさんたちに根気よく教わってきた剣術を思い出した。
「たかが虫だ…できる。できる。できる。」
「ふぅ…」
木をぐるりと回りながら、マンティスの背後に回った。
チャンスは一度きり。
「よし。やってやる。」
胸が躍った。自分の心臓の音が耳に聞こえるほどに。
気のせいかもしれないが、マンティスの位置が感じられた。
タッ タッ タッ!
以前は聞こえなかった自分の足音も聞こえた。瞬間、周りには何も見えなくなった。俺の前には、ただマンティスだけがいた。
「はっ!!!」
息もしていなかった。
「頼むから振り向くな!!! 頼む!!」
飛び上がって、そのまま首を斬り裂いた。死んだと思ったマンティスの目が俺を見ていたので、驚いて後ずさりした。しばらく待ってから、ようやく近づいて鋭い足を切り落とした。
「はぁ…」
そのまま座り込みたかったが、また別のモンスターが出てくるかもしれない。ルベリスをもぎ取って城壁の内側に戻った。
「出血がひどい…」
ここで倒れたら死ぬ。早く神官を探さないと。
歯を食いしばり、血を流しながら走った。
「シルヴィ!!! どうしたんだ???」
「助けてください…」
「こいつ、オーキッド・マンティスを捕まえたみたいだぞ?」
別の警備兵が俺の戦利品を見て言った。
「とりあえず、おぶされ。」
「ありがとうございます…」
目の前がかすんだ。
「おい!俺、ちょっと聖堂に行ってくるから、入り口を見ててくれ。」
「なんだよ?? あれ、シルヴィじゃないか!!! 早く行け!」
緊張が解けたからだろうか。寒かった。眠かった。揺れるたびに腕が痛んだ。
「おい、しっかりしろ!! シルヴィ!」
警備兵が俺の頭をやたらと叩いた。
「寝るな!」
キィィとドアが開く音がした。
「こちらに寝かせてください。」
「はい!」
「ううううう…」
もう少し優しく扱ってくれないかな…傷口が布に擦れた。
黄色い光とでも言うべきか。そんなものが見え、傷は瞬く間に癒えた。治癒魔法は本当に見るたびに不思議だった。かなり高価だと聞いていたが、警備兵とその家族は無料で治療を受けられると聞いていた。
「本当にありがとうございます…」
「お前なあ…。どうしてこんなになるまで…。命が一番大事なんだぞ。死んだら何にもならない!」
「こいつが見えたもので…。へへっ。」
大きなルベリスとマンティスの足を持ち上げて見せた。おぶわれている時でさえ、落とさなかったのだろうか?
「それでも、腕があってよかったな。」
初めて手に入れた戦利品を手にしていると、言葉にできない感情が込み上げてきた。これを誇りと言うべきだろうか。しかし、最初に頭に浮かんだのは、これを見たら母さんも許してくれるんじゃないか、という考えだった。ギルドに行って交換しようかとも思ったが、まずはマンティスの足を母さんに見せたくて、まっすぐ家に走った。まるで猫が主人に獲物をくわえてくるように。
「母さん!!」
休みだった母さんが、家で玉ねぎを洗っていた。
「今日の夕飯も玉ねぎスープか?」
まあ、食べられないことはない。ただ、あまりに頻繁に食べるので飽きてしまっただけだ。いつも同じ玉ねぎスープと固いパン。でも、今日は違う。
「これ見てください!」
「うん?? なんだい?」
母さんが玉ねぎを切っていた包丁を置き、俺を見た。
「じゃじゃーん!」
大きなルベリスとマンティスの腕を両手に持って見せた。
「モンスター…??」
母さんの表情が急に悪くなった。
「はい!今朝ルベリスを探しに行ったら、ピンク色のものが見えたので近づいてみたら、オーキッド・マンティスだったので捕まえました!」
「…」
嫌な予感がした。いつもこのパターンの後には殴られるので、その雰囲気を本能的に感じ取り、とっさに呼び方を変えた。
「お母様??」
「もしかして、森に入ったのかい?」
「はい…。でも、少しだけ外れの方…」
母さんがドンドンドンと音を立てて、力強く俺に向かって走ってきた。その状態で前足を踏み出し、腰を回して腕を90度に伸ばし、さらに腰を回して俺の頬をひっぱたいた。
ブオオオオオン~~~~~と音を立てて腕が振られ、俺の頬に当たると「パァン!!」という音を立てた。
ピイイイイイイイイイイイ…という音が聞こえた。
「え…??」
-ガシャン-
バランスを取ろうと食卓を掴むと、上にあった花瓶が落ちて割れた。
「私が…森????って何度?????言った?」
-ピイイイイイイイイ-
「お母様、ちょっと…待ってください…」
ヘルメットを被っておくべきだった。城壁の上から石を投げてきた歳月は伊達じゃなかった。痛い…。熱くて、喉が詰まって、涙が出た。
「そんなに言うことを聞かないなら、出て行って一人で暮らしなさい!」
マンティスの腕とルベリスを抱えて、ドアの外に走り出した。
外に出た後、ギルドの方へ走った。
涙が止まらなかった。腕で拭うと、ルベリスの実の一部が落ちて地面を転がった。膝をついて拾い上げると、実は土まみれになっていた。その土を払いながら立ち上がったが、あまりの悔しさに、その場でわっと泣き出してしまった。