表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/101

第六節「無敵の理」

広間に張りつめた沈黙を破ったのは、ザックの咆哮だった。

 「ふざけやがって……! お前なんざ、この拳で粉々にしてやる!」

 血走った目を見開き、ザックは地を蹴った。大地が軋み、石床にひびが走る。拳に宿る力が周囲の空気を振るわせ、轟音とともにアキレスへと突き進んだ。

 リューもすぐに剣を抜いた。

 「ザック一人じゃ無理だ――行くぞ!」

 カイが雷を帯びた刃を振りかざし、アリスは矢を番えて疾風のごとく放つ。

 四人の連携攻撃が一点に集中し、アキレスを包囲した。

 だが。

 アキレスは微動だにせず、それらすべてを無造作に受け止めた。

 「……無駄だと言ったはずだ」

 次の瞬間、爆音が広間を揺るがした。

 拳も剣も雷も矢も、すべての力が逆流し、倍化した衝撃波となって仲間たちを襲ったのだ。

 「ぐあっ――!」

 リューの身体が壁に叩きつけられ、ザックは床を転がり、カイは血を吐きながら地面に崩れ落ちた。アリスも矢を手にしたまま吹き飛ばされ、石棺に背中を強く打ちつける。

 轟音に揺らされたガラスの棺が砕け、中に納められた死体が地に散る。その光景は美しくもおぞましく、狂気の館をさらに彩った。

 「くっ……防げ……!」

 ヨハンが素早く詠唱を紡ぎ、魔法の防壁を展開する。

 反射の衝撃を全ては防げず、半分に減衰させたものの、それでも甚大なダメージだった。

 仲間たちは血にまみれ、荒い呼吸を繰り返しながら、かろうじて立ち上がる。

 「はぁ、はぁ……くそっ……まだだ……!」

 ザックが歯を食いしばり、崩れそうな膝を無理やり押し上げた。肋骨が折れ、血が口端から滴る。それでも拳を握り、再びアキレスへ歩を進める。

 「俺がやらなきゃ……終われねぇんだ!」

 リューが制止しようと声を上げるが、ザックの耳には届かない。地を砕くように再び拳を構え、大地が低く唸った。

 アキレスは一歩も動かない。ただ、悠然と立ち尽くし、不敵な笑みを浮かべていた。

 「剣でも拳でも……何でも構わぬ。攻めてくるがいい。君たちが死ぬまでな」

 その挑発が火に油を注ぎ、ザックは咆哮とともに拳を振り下ろした。

 再び炸裂する衝撃。

 倍化した力が反射し、今度はヨハンの防壁すら砕け散る。

 「……ぐっ!」ヨハンが血を噛み、片膝をついた。

 反射の奔流は仲間たちを再度打ち砕いた。

 リューは剣を杖代わりにかろうじて立ち上がるが、視界は暗転し、膝が震えている。

 カイは血に濡れた腕で必死にメギに支えられ、アリスは矢を握りしめたまま動けない。

 ザックは全身を傷に裂かれ、もはや立つこと自体が奇跡だった。

 それでも彼はなお、前を睨みつけていた。

 「……まだ……だ……!」

 膝が崩れ、身体が揺れる。だがその目だけは決して折れていなかった。

 アキレスは冷ややかに見下ろし、薄く笑った。

 「そうだ……その目だ。私を愉しませてみせよ」

 ヨハンは息を荒げながらも、冷静に状況を見つめていた。

 「……ただの防御ではない。受けた力を増幅し、反射する理が働いている。攻撃の数だけ、我らの破滅を呼ぶ……」

 分析の言葉は冷徹であった。だがその声の奥に、わずかな焦りが滲んでいた。

 仲間たちは血を吐き、足元は揺らぎ、意識が薄れかけている。

 ――全滅寸前。

 広間の中心で、アキレスだけが揺るがぬ笑みを浮かべ、戦場を支配していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ