第六節「無敵の理」
広間に張りつめた沈黙を破ったのは、ザックの咆哮だった。
「ふざけやがって……! お前なんざ、この拳で粉々にしてやる!」
血走った目を見開き、ザックは地を蹴った。大地が軋み、石床にひびが走る。拳に宿る力が周囲の空気を振るわせ、轟音とともにアキレスへと突き進んだ。
リューもすぐに剣を抜いた。
「ザック一人じゃ無理だ――行くぞ!」
カイが雷を帯びた刃を振りかざし、アリスは矢を番えて疾風のごとく放つ。
四人の連携攻撃が一点に集中し、アキレスを包囲した。
だが。
アキレスは微動だにせず、それらすべてを無造作に受け止めた。
「……無駄だと言ったはずだ」
次の瞬間、爆音が広間を揺るがした。
拳も剣も雷も矢も、すべての力が逆流し、倍化した衝撃波となって仲間たちを襲ったのだ。
「ぐあっ――!」
リューの身体が壁に叩きつけられ、ザックは床を転がり、カイは血を吐きながら地面に崩れ落ちた。アリスも矢を手にしたまま吹き飛ばされ、石棺に背中を強く打ちつける。
轟音に揺らされたガラスの棺が砕け、中に納められた死体が地に散る。その光景は美しくもおぞましく、狂気の館をさらに彩った。
「くっ……防げ……!」
ヨハンが素早く詠唱を紡ぎ、魔法の防壁を展開する。
反射の衝撃を全ては防げず、半分に減衰させたものの、それでも甚大なダメージだった。
仲間たちは血にまみれ、荒い呼吸を繰り返しながら、かろうじて立ち上がる。
「はぁ、はぁ……くそっ……まだだ……!」
ザックが歯を食いしばり、崩れそうな膝を無理やり押し上げた。肋骨が折れ、血が口端から滴る。それでも拳を握り、再びアキレスへ歩を進める。
「俺がやらなきゃ……終われねぇんだ!」
リューが制止しようと声を上げるが、ザックの耳には届かない。地を砕くように再び拳を構え、大地が低く唸った。
アキレスは一歩も動かない。ただ、悠然と立ち尽くし、不敵な笑みを浮かべていた。
「剣でも拳でも……何でも構わぬ。攻めてくるがいい。君たちが死ぬまでな」
その挑発が火に油を注ぎ、ザックは咆哮とともに拳を振り下ろした。
再び炸裂する衝撃。
倍化した力が反射し、今度はヨハンの防壁すら砕け散る。
「……ぐっ!」ヨハンが血を噛み、片膝をついた。
反射の奔流は仲間たちを再度打ち砕いた。
リューは剣を杖代わりにかろうじて立ち上がるが、視界は暗転し、膝が震えている。
カイは血に濡れた腕で必死にメギに支えられ、アリスは矢を握りしめたまま動けない。
ザックは全身を傷に裂かれ、もはや立つこと自体が奇跡だった。
それでも彼はなお、前を睨みつけていた。
「……まだ……だ……!」
膝が崩れ、身体が揺れる。だがその目だけは決して折れていなかった。
アキレスは冷ややかに見下ろし、薄く笑った。
「そうだ……その目だ。私を愉しませてみせよ」
ヨハンは息を荒げながらも、冷静に状況を見つめていた。
「……ただの防御ではない。受けた力を増幅し、反射する理が働いている。攻撃の数だけ、我らの破滅を呼ぶ……」
分析の言葉は冷徹であった。だがその声の奥に、わずかな焦りが滲んでいた。
仲間たちは血を吐き、足元は揺らぎ、意識が薄れかけている。
――全滅寸前。
広間の中心で、アキレスだけが揺るがぬ笑みを浮かべ、戦場を支配していた。




