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第十三節「灰と影の果てに」

 プロメテウスの巨体が崩れ落ち、轟音とともに灰となって散っていった。神殿の裂け目から吹き込む風がそれを巻き上げ、黒雪のように空を覆う。

 リューたちの視線の先で、灰は渦を巻きながら格納用ポッドへと吸い込まれていった。漆黒のエネルギーの奔流が、光を歪めながら凝縮されていく。圧倒的な密度——これだけあれば、召喚三人分に匹敵するほどのダークエネルギーだ。

 「……これで、アリス以外も……」

 リューが荒い息の中で呟いたその時だった。

 「オナカ……スイタ」

 不意に、黒い影が揺らめいた。カイの足元に寄り添っていたメギが、格納ポッドに吸い込まれていくエネルギーの一部を横取りするように吸い込み始めたのだ。

 「な、なにしてる!?」

 ザックが思わず声を張り上げる。

 確かにメギは戦いの最中、プロメテウスの力を削り取り、炎と空間を無に帰していた。その延長線上として灰を食んでいるのかもしれない。だが——。

 「おいおい……召喚に必要な、貴重なエネルギーなんだぞ……」

 ゼノンの声が低く響く。普段は揺るがぬ賢者の声に、珍しく焦りが混じっていた。

 リューたちは唖然とした。だがすぐに、互いの目を合わせる。戦いを共にし、命を守ってくれた存在。戦局を有利に進めてくれた感謝。いま、彼を止める気にはなれなかった。

 「……いいよ。満足するまで食べさせてやろう」

 リューが静かに言った。

 「リュー……」ゼノンが言いかけたが、彼は首を振る。

 「それに、俺たちも限界だ。今、力ずくで引き剥がす余裕なんてないだろ」

 そうしてメギは、灰の奔流を少しずつ取り込み続けた。異形の影の体に、エネルギーが脈打つように流れ込む。だが、吸い込んでも吸い込んでも、彼の声は同じだった。

 「オナカ……スイタ」

 「ま、まだ食うのか……?」ザックが額の汗をぬぐう。

 「まるで底なしね……」アリスは疲弊した声で吐息を漏らした。

 やがてポッドの吸引は止まり、灰はすべて収束した。必要量のほとんどは確保できたはずだった。それでも、メギはなおも満たされないかのように揺らめいていた。

 「……もう十分だろ?」

 リューが声をかけると、影は一度だけ震え、そのままぴたりと動かなくなった。

 「メギ……?」

 カイが心配そうに呼びかける。いつもなら彼の影に戻るはずの存在が、床に置かれた黒い殻のように沈黙している。

 リューたちは疲弊していた。だが放置するわけにもいかず、その場に腰を下ろして様子を見守ることにした。神殿の崩落は止み、静寂だけが戻る。傷を負った身体に休息を許す時間だった。

 数時間が過ぎた。重苦しい沈黙の中で、ふいに影が震えた。

 「……ん……」

 カイが身を乗り出す。

 「メギ!? 大丈夫か!?」

 黒い影はゆっくりと形を変え始めた。かつてはカイと同じ背丈ほどだった体が、膨張と収縮を繰り返し、異形の輪郭を形づくっていく。鋭い輪郭、伸びる影の腕、そして光を呑む眼。だが同時に、その姿には人の気配もあった。

 「……なにが……起きている……?」

 アリスが息を呑む。

 ゼノンは目を細め、低く呟いた。

 「進化……いや、再構築……プロメテウスの力を取り込んだことで、存在そのものが変質しているのか……」

 その時だった。メギの口がゆっくりと開き、空気を震わせた。

 「カイ……」

 その声音は、かつてのカタコトではなかった。

 「これで……ようやく君と会話できる」

 「メ……メギ……?」

 カイの目が大きく見開かれる。

 影の魔神は、確かに言葉を紡いだ。はっきりとした、人の言葉で。

 リューは深く息を吐き、仲間たちの顔を見渡した。戦いの果てに訪れた新たな変化。それは喜びか、それとも——新たな脅威か。

 崩れ落ちた神殿の静寂の中で、誰もその答えを持ってはいなかった。


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