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第七節「プロメテウス開戦 ~その4~」  

怒り狂う咆哮が、神殿全体を震わせた。

 「憎い……憎いッ! 人間ども、灰となれ!」

 プロメテウスの両腕が掲げられ、炎の奔流が渦を巻く。まるで太陽そのものが神殿の中に落ちてきたかのような圧倒的な熱量だった。壁は一瞬で溶け落ち、床は赤く灼け爛れ、空気すら燃え上がる。

 アリスが氷壁を張る。だが、炎の奔流はそれを粉々に打ち砕いた。氷が蒸発し、結界ごと押し潰される。

 「ぐっ……!」アリスの喉から苦鳴が漏れる。防御に徹していた彼女の魔力はすでに限界に近かった。

 「アリス!」

 リューが駆け寄る。しかし彼の身体もまた満身創痍だった。模倣で生み出した魔法は既に限界を越え、内側から身体を蝕んでいる。吐き出す息が熱を帯び、指先は震えていた。

 ザックはなおも拳を振るう。炎を切り裂き、仲間の盾となる。しかし次の瞬間、プロメテウスの拳が直撃し、彼の巨躯は石壁へ叩きつけられた。

 「ぐはッ!」

 血を吐き、立ち上がろうとするが足が震える。もはや限界は明らかだった。

 カイも影を操って突撃するが、プロメテウスの炎がその黒影を次々と焼き払い、彼自身も吹き飛ばされる。胸を打ちつけ、息が詰まり、床を転がった。

 全員がボロボロだった。

 プロメテウスはほとんど傷を負っていない。巨躯はなおも炎を纏い、灼熱の視線を四人に向ける。

 「これで終わりだ、人間ども……!」

 灼熱の核が神殿の中央に形成される。直径十数メートルに及ぶ火球。触れれば、いや、存在するだけで大地を灰燼に帰すほどの炎の塊。

 リューは立ち上がろうとした。しかし足が動かない。

 アリスもザックも、もう防ぐ力は残っていなかった。

 「……これで、終わるのか」

 誰もがそう思った、その時――

 時が止まった。

 炎の奔流が凍りついたかのように停止した。プロメテウスの咆哮も、崩れ落ちる瓦礫も、すべてが静止している。

 「な、なんだ……?」リューが目を見開く。

 その中心にいたのはカイだった。

 彼の影――メギが暴走していた。黒い影が神殿全体を覆い、天井から床までを飲み込んでいく。時間すら呑み込むかのように、すべての動きを縫い止めていた。

 「やめろ、メギ……! 俺は、まだ……!」

 カイは必死に抗うが、影は聞き入れない。

 影の瞳が開かれた。そこには灼熱のプロメテウスの姿が映っていた。

 「メギ……オナカスイタ…カイキライ、ゴハンクレナイ、オマエ…オイシソウ…タベル」

 メギが囁いた瞬間、プロメテウスの炎が黒に染まり始めた。燃え盛る炎が影に吸い込まれ、赤い輝きが一つ、また一つと奪われていく。

 「ぐおおおおおおっ! なにを……貴様ァァァァ!」

 プロメテウスの巨体が軋む。止まった時間の中で、ただ彼の絶叫だけが響き渡る。炎の覇気が削がれ、かつて絶対の力と思われた災厄の炎が弱体化していく。

 リューはその光景を呆然と見つめた。

 「……力を、奪っている……?」

 アリスも息を呑む。「そんな……神魔の力を、奪うなんて……」

 やがて時が動き出した。

 爆ぜる音と共に、神殿の空気が一気に解放される。だが、プロメテウスの炎はすでに先ほどの覇気を失っていた。燃え盛るはずの火球も霧散し、赤黒い煙だけを残して消え失せる。

 カイは膝をつき、肩で息をしていた。

 「はぁ……はぁ……メギ……勝手に……お腹が空いたって…」

 その顔は苦笑している。自分の意思ではなく、影が食欲という根源欲求に従い本能で勝手に動いているのだ。

 だが、事実として――プロメテウスのダークエネルギーはメギに吸収されているように見える、そして、絶対的な力は削がれた。

 「……まだ、終わってはいない」

 アリスが震える声で呟く。

 リューは歯を食いしばった。「そうだ、ここからが本番だ」

 炎の巨神はなおも立っている。だが先ほどの圧倒的な力はもうなかった。

 次こそ、本当に決着をつける時が来る。

 ――総力戦の幕は、まだ閉じてはいなかった。


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