第六節「プロメテウス開戦 ~その3~」
轟音が響き渡った。
氷と炎がぶつかり合い、神殿の石壁が溶け、凍り、そして砕け散る。互いの力が拮抗し、一歩も引かぬまま、ただ破壊だけが広がっていった。
だが、先に均衡を崩したのは――炎だった。
「――燃え尽きろォッ!」
プロメテウスが怒号と共に拳を振り下ろした。炎が渦を巻き、巨大な火柱となってアリスへ襲い掛かる。
氷の女王と呼ばれるアリスであっても、その熱は全身を焼き尽くすほどだった。結界が鳴動し、白銀の盾がひび割れる。あと数瞬で砕け散る――。
その刹那、影が割り込んだ。
「退けェッ!」
ザックの咆哮。
拳を振るい、影すら焦がす炎を無理やりはじき飛ばす。炎が爆ぜ、衝撃波が走る。だがザックの腕には焼け焦げた跡が浮かび上がっていた。
「アリスを殺させはしねえ……!」
苦痛に顔を歪めながらも、ザックは一歩も引かない。
その横でリューが駆ける。模倣者の眼が、アリスの氷とプロメテウスの炎を同時に映す。
「……なら、合わせてみせる!」
リューは両腕を突き出した。氷と炎、相反するはずの力が彼の中でねじれ、せめぎ合い、そして一瞬だけ調和する。蒼炎を纏った氷の槍が生成され、プロメテウスへと放たれた。
「なに……?」
巨躯が初めてたじろぐ。槍は肩口をかすめ、灼熱の肉体に白い傷跡を刻んだ。ほんの表皮を削っただけ。しかし――確かに傷を与えたのだ。
「やれる!」
カイが叫ぶ。その声に呼応するように、影が爆ぜた。
「メギ……また勝手に!」
カイの背後から伸びる黒影が、無数の刃となってプロメテウスを貫こうと襲い掛かる。しかし怒れる炎の巨人は腕を振り払うだけで影を焼き散らし、カイ自身を吹き飛ばした。
「ぐあああっ!」
壁に叩きつけられるカイ。呻き声をあげる彼に、プロメテウスの眼が向けられる。怒りと憎悪に満ちた眼光が、ただの人間など塵としか見ていないことを雄弁に語っていた。
「憎い、憎い、憎いッ!!人間ども――我が炎で灰と化せ!」
神殿が揺れる。崩落の音が轟き、天井から瓦礫が雨のように降り注ぐ。そのすべてが炎を帯び、避ける暇もなく焼き払われる。
「下がっていろ!」
アリスが声を張り上げる。氷の結界が再び張り巡らされ、瓦礫を凍らせ、仲間を守った。
しかしその代償は大きい。アリスの呼吸は荒く、白い息が苦痛に震えている。額からは汗が滴り、手は小さく震えていた。
「アリス、もう無理するな!」リューが駆け寄ろうとする。
だが彼女は首を横に振った。
「いいや……ここで退けば、終わる。奴は私の氷でしか止められぬ」
その瞳は、かつて鳥籠に閉じ込められていた少女のものではなかった。国を背負い、仲間を守る意志を宿した、氷の王女の眼差しだった。
プロメテウスが再び炎を纏う。怒りの咆哮が空間を裂く。
アリスは一歩踏み出した。足元の氷が砕け、白銀の冷気が迸る。
「――次は、全力だ」
その言葉に、リューもザックもカイも頷いた。
戦場の空気が変わる。




