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第3節:忍び寄る影

 ラゼルの城は静まり返っていた。

 崩れた外壁、剥がれかけた紋章、焼け焦げた床の痕跡。

 人払いでもされているのか、側近以外の見張りの姿もなく、重たい魔力の名残だけが広間に漂っていた。

 「……誰も、いないですね」

 カイが呟く。

 リューは返さず、無言で階段を上っていく。

 その足音が、空虚な石の回廊に吸い込まれていった。

 最上階の広間に入ると、窓辺に黒衣の男が立っていた。

 ラゼル。雷を極めし者。いまは“裁雷帝”と呼ばれ、人々に恐れられている男。

 「……来たか」

 背を向けたまま、ラゼルは低く言った。

 「話をしに来た。ラゼル、お前の部下がやった塔の件も含めてな」

 リューがそう口を開いた直後、雷光がリューに放たれた。

 爆風と土煙が広間を満たし、その中から黒い鎧の男が現れる。

 「お前さえいなければ……!」

 ヴァイス。

 かつて塔に侵入し、リューに撃退された男だった。目には怒りと、焦りと、そしてどこか哀しみが宿っていた。

 「貴様が邪魔したせいで……ラゼル様の弟を救えなかった!」

 「どういうことだ!?」

 「お前に理由を言う必要はない、消えろ!」

 「ヴァイス、ひかえろ…」

 ラゼルが低く声を発するが、ラゼルの命にだけは忠実なヴァイスが命を聞かない。

雷の魔力を纏い、一気に距離を詰める。

 リューは静かに手を地に向けた。

 「土龍の槍」

 床が裂け、槍のような岩がヴァイスの足元を狙って突き上がる。

 ヴァイスは跳躍してかわし、雷刃を振るった。衝撃が広間を走る。

 「土封の鎖」

 岩の鎖が地面から巻き上がり、ヴァイスの腕を拘束する。雷の力が抵抗するが、鎖はびくともしない。

 「以前会った時は雷魔法を使い、今度は土魔法だと……なんなんだ貴様は……」

 「ただの真似事だ、くだらない俺の呪いだ」

 ヴァイスは苦しげに唸り、鎖の中でもがいた。

 やがて力を使い果たし、膝をつく。

 「……貴様に、ラゼル様の気持ちがわかるのか……!」

 「塔に侵入し、罪のない老人を殺したお前が人の痛みを解く資格はあるのか?」

 リューの言葉に、ヴァイスは目を閉じた。

 肩が震えている。

 ラゼルがゆっくりと近づいた。

 「ヴァイス、お前を暴走させたのなら……それは、俺の過ちだ」

 ヴァイスは、まるで鎧が崩れ落ちるように、その場に座り込んだ。

 「申し訳ございません…私はただ…」

 「言い訳はいい、わが弟を治すため塔に侵入したと言ったな、話せ」ラゼルのすごみが空間を張り付かせる。

 「…はい。ある日を境に、夢の中で何度も、ラゼル様と一緒に元気に歩く弟さまの姿が現れるようになったのです。“ラゼルの心を救いたければ、封印塔の扉を開けよ”という声と共に。私がその言葉にうなずいたあと、気がつけば……塔に侵入し、あの老人を……殺していました。」


 「もういい」ラゼルは静かに目を伏せた。

 しばし、誰も動かなかった。

 「……ラゼル、俺は、師を探している、今回の件も関連しているだろう」

 リューの声が、その静寂を破った。

 「師か…居場所はわからん。だが、リューお前が訪ねるべき男がいる」

 「ザックか」

 ラゼルが顔を上げる。

 「西のクラト渓谷。鍛冶師たちと一緒にいるらしい。頑固者だが……お前の力になるかもしれない」

 「だが…人は変わる…俺のようにな」ラゼルは遠い昔を思い返すように目を伏せてつぶやいた。

 「わかった、変わったのはお前だけじゃない」

 リューはそう告げて、背を向けた。

 広間を出ると、曇り空の向こうにかすかに光が差していた。

ロサンジェラとカイが隣に並ぶ。

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