表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/101

最八節:新たな大地の神(前編) 

ミダス大河の上空に、黒雲が渦を巻いていた。雷鳴も稲妻もなく、ただただ重く、音を吸い込むように渦を描く。

 濁流の向こう、ケンタウロスの軍勢が地を揺らし進軍してくる。百体を超える筋骨隆々の獣人たちが、大地を踏み鳴らすたび、河岸に亀裂が走り、砂塵が舞い上がった。

 角笛が三度鳴る。咆哮が空に突き抜け、戦の幕開けを告げた。

 その中心に立つカノッサは、もはや人の姿をしていなかった。毒の神魔として生まれ変わったその肉体は、血管のように浮かぶ毒紋に覆われ、皮膚は岩のように黒く硬化し、肩からは瘴気が常に噴き出していた。

 「なぜ、貴様が立っている……!」

 怒声が響く。かつての「親友」への想い、それはもはや言葉にすらならない。

 対するザックは静かだった。

 「……遠慮はいらねえな。ここには、壊しちゃいけねえ街も、人もいねえ」

 その言葉に、リューやカイも背筋を正す。ザックの背から噴き上がる気配は、まさに“神”のそれだった。

 彼の拳がゆっくりと構えられた。

 「土怒髪天!!」

 地が、唸った。

 ザックの拳が振り下ろされた瞬間、大地が崩れ落ち、空間が“ひずんだ”。ケンタウロス軍の前列は吹き飛び、土柱と雷光のような亀裂が辺りを薙ぎ払った。

 「な、なんだあれ……」カイが目を見開く。

 「修行時代にも見たことがない。底がない男だとは思っていたが……」リューは唾を飲み込んだ。

 グラムが静かに呻いた。

 『さすがヘラクレスの意志を継ぐ者……まるで、英雄の復活だな』

 ザックの一撃が放たれるたび、大地は陥没し、土塊と共にケンタウロスが宙を舞う。

 それを見て、カノッサの心はざわついた。焦りが、皮膚の内側からじわじわと染み出す。

 「まただ……また“あれ”を見せつけられるのか……!」

 牙をむいたカノッサは、舌打ちする。正面からでは勝てないと、心が叫んでいた。

 ザックの拳に耐えられる者など、この場にいない。では、どうする? どうすればこの“光”をまた曇らせることができる?

 視線が、一人の少年をとらえた。

 ——カイ。

 小さな体。まだ若い。戦場に立つには、未熟。あれを“盾”にすれば——

 カノッサの瘴気が地面に溶け込むように広がる。

 そして、闇が地中から伸びた。

 刹那、リューの背筋に寒気が走る。

 「カイ、下がれ——!」

 だが、遅かった。

 カイの背後に現れたカノッサの腕が、その首筋に分厚い指を添えた。

 「動くな、小僧はこの手にある」

 冷たい声音が戦場の空気を裂く。ザックが振り返り、リューと共に構える。が、動けない。

 「おい、ヘラクレス……いや、ザックだったな? こいつの命、惜しかろう?」

 勝ち誇るような笑みを浮かべるカノッサ。

 だが、そのときだった。

 『……選ぶ相手を間違えてるぞ』とグラムが言った。

 カイは、無表情だった。

 「離したほうがいいと思う……カノッサ。あなたのために言ってる」

 ……なぜだ。

 なぜ、この少年は怯えない? なぜこの状況で笑っている? そして——なぜ、ザックは拳を下ろさない?

 「なん、だ……?」

 カノッサの額に、冷たい汗がにじんだ。

 胸の奥に、不気味なざわめきが走る。

 そしてその正体は、まだわからない。

 だが、そのざわめきこそが、次の災厄の前触れであることを、カノッサはこの時、まだ知らなかった——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ