表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/101

第五節:戦の記憶、蹄の咆哮

 ミダス大河の毒霧を割って現れたのは、圧倒的な“力”の集合だった。

 筋骨隆々とした上半身と、鋼のような四肢を持つ下半身。その体躯は人間の二倍近くあり、踏み鳴らすたびに大地が震えた。

 百体にも及ぶケンタウロスの軍勢は、まるで戦場そのものが動いているかのような迫力を放っていた。

 「数だけじゃねぇな……どれも殺気が研ぎ澄まされてやがる」

 ザックが舌打ち混じりに言い、拳を握った。

 その表情には怯えも迷いもなかった。ただ、怒りと、なにより深い“感覚”が浮かんでいた。

 「……ザック、なぜそこまで」リューは魔剣グラムにしか聞こえないほどの小声で呟いた。

 『あれは“刻まれている”のだ……記憶というより、本能に』

 「俺は行くぞ、リュー。奴らは交渉の言葉を持たぬ」

 ザックは一歩、前へと踏み出していた。

 「こっから先は、俺の得意分野だ」

 それだけ言い残すと、地面を蹴った。

 大地が爆ぜる。地響きが足元から伝わる。

 瞬間、巨大な身体が矢のように毒霧の中へ突っ込んでいく。

 「ザック、待て!」

 リューの制止は届かなかった。

 ケンタウロスたちは、突如現れた人間ひとりに一瞬動きを止めた。

 だが、その一人が“ただの人間ではない”と気づいたのは次の瞬間だった。

 「吼えろォォォ!」

 ザックの拳が叩きつけられた瞬間、前衛のケンタウロス5体が衝撃波に吹き飛ばされ肉体が崩壊した。ザックの拳を直線的に受けた生物の末路だ。

 地面がめくれ、衝突した岩肌が砕け散る。

 「なんだこの力は……!? 人間か、貴様……」

 一体が呻く。

 そのとき、背後からゆっくりと現れたケンタウロスの男が、全軍の前に立った。

 漆黒の体毛に赤い入れ墨、額に飾られた金の装飾。

 他のケンタウロスとは明らかに異なる、重厚な気配を放っていた。

 「貴様……その姿……その剛拳……まさか……」

 ザックの前に立ったその男が、目を見開いた。

 「なぜ……貴様が生きている?ヘラクレスは……死んだはず……!」

 ザックは眉をひそめた。

 「ヘラクレス……? 誰だ、それは」

 「黙れ……その声音、その眼光……そしてその力、誤魔化せるものか!

 我が毒に沈んだあの男の、生き写しか……!?」

 後方にいたデイアネイラが、息を呑む。

 「——その声……あの顔……あれは……」

 彼女の手が震え始める。

 「間違いない……カノッサ……!」

 ケンタウロスの男、カノッサ——その名を聞いた瞬間、ザックの拳が低く鳴った。

 「カノッサ……。お前が……!」

 「来い、ヘラクレスの亡霊よ。今こそ決着をつけてやる」

 その宣言とともに、百体以上のケンタウロスが一斉に戦闘体勢をとった。

 だが、ザックの足は止まらない。

 その拳は燃えていた。

 まるで、遥か昔の記憶が今、再びこの地で燃え上がったかのように——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ