第四章 新たな大地の神 第一節:鉄の拳
"When it's time to party, we will always party hard"
「宴のときが来れば、俺たちは全力で騒ぎ続ける。」
— Andrew W.K.「Party Hard」
研究所に戻ったリューは、シーカツカの戦いで得たダークエネルギーのポッドをゼノンへと手渡した。
「召喚の準備を始める」
ゼノンの声とともに、演算柱が起動し始める。ラボの照明が落とされ、六角の召喚台が床から滑り出てきた。ガラス管の中には既に“器”が配置され、魔力伝導のパターンが円環を描くように光り始めている。
「誰が来てくれるか」
ゼノンは小さくうなずいた。
「魂と器との適合率によって自動的に引き寄せられる。制御はできない」
リューは黙って頷いた。いずれ誰を呼び戻すか選べる日が来るのかもしれない。だが、今はその余裕もなく、可能な限り戦力を補わねばならない局面だ。
やがて、空気が震えた。魔法陣が淡く脈動し、黒い霧のような魔素が降下する。召喚台の中心が軋み、浮かび上がるように人影が現れる。
土気色の肌、隆起した筋肉、まるで岩石のような肉体の男が、膝をついていた。呼吸は深く重く、まるで地の底から這い上がったような存在感だった。
「……ここは……どこだ」
低く掠れた声が漏れる。男は頭を持ち上げ、まっすぐリューを見据えた。
「……お前の顔、まさかリューか…」
「ザック……間違いない」
リューが呟いたそのとき、彼の腰に帯びた魔剣グラムが共鳴し、低い声を響かせた。
『この神威……まるでヘラクレス。だが、粗い。鍛えきれていない剛力か』
「なんだ、こいつは」
ザックが警戒を強める。グラムがさらに語気を強めた。
『我が刃に耐えられるか……この身で確かめたくなったぞ』
「剣が喋ってるのか。面白れぇ……いいぜ、やってやろうじゃねえか」
ザックはゆっくりと立ち上がり、拳を鳴らす。実験室の床がわずかに揺れた。足元にはひび割れのような小さな亀裂が走り、重圧が空間全体を満たしていく。
「ちょっと待て。ザックは召喚されたばかりだ。肉体も精神もまだ不安定な状態で、やる気なのか?」
ゼノンが慌てて制止の声を上げる。しかし、ふたりの目はもう交差していた。
「問題ない」
ゼノンは呆れたように言う。
「地下試験区画、D-7なら。あそこなら多少暴れても崩れはしない勝手にやればいい」
ゼノンは短くため息をつき、装置のロックを解除した。
「……やれやれ。こちらの計画はお前たちの本能で狂わされるな」
数分後、地下の広大な演習空間に二人は立っていた。天井は高く、壁は魔力を反射する特殊合金で覆われている。魔法と肉体、両方の力がぶつかり合うにはうってつけの場所だった。
「手加減は?」とリューが問うと、魔剣グラムは静かに答えた。
『不要だ。我は試す。剣としてではなく、魂として。こやつの“真価”を』
ザックもまた、肩をぐるりと回し、笑みを浮かべた。
「どれほど鍛えても、鈍った剣にゃ興味はねえ。だが、本物の刃なら話は別だ」
次の瞬間、魔剣の刃が走った。閃光のごとく飛来した一閃が、空間を裂く。ザックは微動だにせず、その拳で剣閃を受け止めた。
「ほう……悪くねえな」
手から火花が散る。拳が、魔剣の斬撃を止めたのだ。
「受け止めるか、懐かしきヘラクレスの神威を持つものよ……だが、その強度、測らせてもらう!」
グラムが跳ねた。ザックが吼えた。
地が砕け、空気が爆ぜる。
その戦いは、もはや試し合いという言葉では収まらなかった。
魔剣グラムとザックの戦いは、まさに圧巻の一言だった。
全てを断ち切るはずの魔剣の刃を、ザックは土と鍛え上げた肉体のみで遮断してみせた。 一撃ごとに壁がひび割れ、重力が軋み、魔力の衝突波が空間を歪める。
勝敗はつかず、両者ともに本気を出し始め、もはやどちらかが滅びるまで止まる気配すらなかった。
「もう限界だ……!」
ゼノンは苦い顔で呟くと、手元の端末を操作し、演習場全体に吸魔器具を展開、同時に重力制御を最大圧に設定した。
金属音とともに天井から降下するリング状の装置が発動し、空間を包む魔力が強制的に吸収されていく。
「……終了だ」
ゼノンの一声により、闘気のぶつかり合いが急激に収束し、二人の姿が静かに沈黙の中に消えていった。




