第七節・前編:決意と共闘の炎
灰色の風が、焼け爛れた大地を這うように吹き抜ける。
イフリートを討ち果たした直後、リューたちは次なる座標――冷熱の交差する裂谷域に転進していた。
そこに現れたのは、神魔メランドとフレア。
ひとりひとりはイフリートに及ばぬ存在ながら、ふたりはまるで意志を共有しているかのように動き、戦場全体を連携攻撃で支配し始めていた。
最初に狙われたのは、カイだった。
「こいつら……!」
フレアが炎を螺旋状に吐き出し、メランドがタイミングを合わせてその下に熱気の圧縮球を撃ち込む。
二重衝撃が交錯し、カイの立っていた場所を爆裂と閃光が貫いた。
「リューッさん!」
リューが剣に手をかけたその時、魔剣グラムが微かに唸る。
『……手を出すな。あの少年が自ら立つ覚悟を選んだのなら、見届けろ』
「だが——!」
『もしもの時は、我ひとりであの範囲なら防げる。だが今、踏み出すのは“無礼”だ。』
リューは拳を強く握りしめた。
カイは吹き飛ばされながらも、起き上がっていた。頬が裂け、肩から血が滲む。
だがその瞳には、怯えも迷いもなかった。
(今度は、僕が守る番だ——)
封印の塔での一件以来、カイはずっと己の弱さを噛み締めていた。
ザックやロサンジェラとの修行、光の教団での修練。リューが戻るまでの間、ただじっと力を蓄えてきた。
フレアが横薙ぎの火刃を放ち、メランドがその背後から鎖のような火線を撃ち込んでくる。
「……ッ!」
カイは転がりながら結界を展開。ギリギリで焼失を免れる。
「俺は弱点ってことか……!」
その声に、どこか苦笑が混じっていた。
この世界に召喚されてから、まだ数週間。だが、実戦はこれが初めて。体も魔力も、まだ完全には馴染んでいない。
それでも——守りたかった。
「リューさんの足を、引っ張らないって……決めたから!」
炎が唸るたびに、カイの足が焼かれ、手が痺れる。
それでも立ち上がる。何度も、何度でも。
その姿を、グラムは黙って見つめていた。
『……人というものは、面白い』
メランドが大きく身をひねる。剣のように変形した両腕をカイめがけて突き出す。
カイは、次の瞬間、動けなかった。
(来る、来る、でも身体が……!)
——その瞬間、時間が歪んだように思えた。
熱が引き、音が遠のいた。
メランドの動きが、まるでスローモーションのように見える。
同時に、どこか懐かしい声が、耳の奥で響く。
『私の可愛いカイ……』
あのときの女性の声だった。扉の向こう、夢の中で見た、あの光景。
リューがその様子に気づき、剣を抜いて駆け出した。
「カイッ!」
だが、間に合わないはずだった。
……それでも、メランドの攻撃は、なぜか逸れた。
「な……?」
メランド自身が戸惑っていた。
明らかに命中するはずの軌道が、カイを避けるようにねじれていた。
『……力が、解放されてきたか』
グラムが静かに言う。
炎に包まれた中、カイはふらりと立ち上がる。
両目が、淡く光を帯びていた。
「戦う必要はない。一体になり、僕に従え」
その言葉は、命令というより祈りに近かった。
次の瞬間——フレアとメランドの動きが、止まった。
ふたりの神魔は苦しむように身を震わせ、ダークエネルギーが皮膚から漏れ始める。
その場にいた誰もが、言葉を失った。
リューは剣を下ろし、静かに呟いた。
「……いま何をした?」




