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第二章:ドーエの嘆き

"Bound with all the weight of all the words he tried to say

Chained to all the places that he never wished to stay

As he faced the sun he cast no shadow"

「語ろうとした言葉の重さに縛られ、望んでもいない場所に囚われ

 太陽に向かっても、影すら落とせなかった」

──Oasis – “Cast No Shadow”より

第一節「ドーエ地区への道」

 リューは重たい空を見上げた。黄ばんだ雲の合間から、微かに腐臭を含んだ風が吹き下ろしてくる。そこはかつて、人々が笑い、語らい、城と広場と水路が織りなす美しい都市だった──今や「ドーエ地区」と呼ばれるこの土地は、見る影もない廃墟と化していた。

 大地は亀裂に覆われ、建物は骨のように露出した鉄骨を剥き出しにしている。広場の噴水は干からび、かつて街の心臓だった水路には黒い液体が淀んでいた。

 「……神魔に飲まれた世界、か」

 リューは呟き、金属製のマントを風にひるがえして進む。彼の足取りには迷いがなかった。この地の奥深く、ドーエ川の底に眠る存在──“シグルズ”に辿り着くために。

 途中、崩れ落ちた図書館の残骸に立ち寄る。瓦礫をかき分け、半ば炭化した書物の山をめくっていくと、一冊だけ、ほとんど無傷の厚い記録書が現れた。

 《ユーミル暦888年 古代ドーエ防衛戦・英雄ジグルス録》。

 ページをめくるごとに、戦火の中で名を残した者たちの記録が現れる。その中の一節、リューの目がある名に止まった。

 ──シグルズ・ヴァンデル=ガルム。王国騎士団筆頭、全てを切断する魔剣を携え、防衛線に立った男。

 その記述は驚くほど詳細だった。民を逃がすために最後まで城門に残り、敵の群れに囲まれながらもひとり抗い続けた姿。無数の兵を率いて戦場に咆哮し、最終的には自らの魂を対価に、何かを“封じた”とされる謎の一文。

 「高潔なる英雄……か」

 しかし、今やその名は地元の伝承でこう語られる。

 ──ドーエ川に棲む金の竜、すべてを飲み込み、富に執着し、咆哮ひとつで空を裂く呪いの存在。

 リューは書物を閉じた。彼は知っている。伝説の竜の正体が、かつての英雄シグルズであることを。そしてその竜が、いまだ水脈の奥に眠っていることを。

 「なぜ、英雄は魔竜になった?」

 疑問が胸に重くのしかかる。だが答えはきっと、彼自身が確かめるしかない。

 ドーエ川は、都市の最奥にある崩落した運河のさらに奥、封鎖された地下鉄道網を抜けた先に口を開けていた。金属板で閉じられた扉は、まるでこの世の終わりを告げるかのように重々しい。だが、リューは迷わなかった。

 彼の中で、記憶が蘇っていた。かつての自分。模倣の魔法を極め、誰よりも正確に、誰よりも速く、技を再現していた己の姿。しかし──今のリューにその力はない。

 ゼノンは言った。

 「この地球では、魔法は概念そのものが分断されている。お前がノアで積み重ねた力は“模倣”されていても、“経験”が足りぬ。つまり、お前が扱っていたのは“経験からなる力”であり、“知識の力”ではないのだ」

 再び高みに至るには、戦いが必要だ。力を取り戻すため、闘いと対話の中で、自分自身を更新しなければならない。

 だからこそ──リューはこの地を選んだ。英雄であり、堕ちた者であり、今もなおこの世界で生き続ける存在。かつての“シグルズ”が残した魂と向き合うために。

 封鎖扉の端末に古代文字が浮かび上がる。認証にはダークエネルギーの放出が必要だった。だが、リューは無言で片手をかざす。模倣ではなく、意志のままに放たれる青白い光が、封印を破る。

 「行こう、シグルズ。お前の痛みと、俺の問いを──この闘いで答え合わせしよう」

 扉が開いた。闇の中に冷たい風が吹き抜ける。リューはその中へと、一歩を踏み出した。


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いつもお読みいただきありがとうございます!!

執筆のモチベーションになってます、本当感謝してます。


本作『模倣しかできないイミテーターが、世界を変えた話』を、

Amazon Kindleにて第一部の電子書籍版リリースしようと作業中です。

出版したらぜひご購入いただけますと幸いです!

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