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第三節:「再会──使命に生きる者」

「……ゼノン、あなたは……どうして……」

リューは震える声で問いかけた。目の前の人物は、確かにかつての師その人だった。しかし、その姿はもはや人と呼べるのかさえ曖昧だった。皮膚の半分以上が機械に置き換わり、眼球は多層構造のレンズで覆われ、関節のひとつひとつが金属と有機組織の融合体で補強されていた。あまりにも静かに、まるで時間から切り離された存在のように、ゼノンはそこに立っていた。

「どうして……そんな身体に……」

リューの問いに、ゼノンは短く息を吐いた。それは笑いともため息ともつかない、感情の奥底からこぼれ落ちた音だった。

「生き延びるためだ。ここで、人として在ることはもはや赦されない。私は“機械であること”を選ばねばならなかった」

「なぜ……あなたがそこまでして……」

「私なりに人類を守るためだよ、リュー」

ゼノンは、静かに視線を上げた。その目に宿る光は、人工のものとは思えないほどに深く、そして確かだった。

「お前が敗れたあの大きな戦いの直後──地球は、希望を失いかけていた。神と悪魔、あるいはそれに類する存在が次々に現れ、人類の文明を食い潰していった。我々が持ち得た最も強力な武器──核も、AIも、経済も、彼らには通じなかった。唯一対抗できる術が進魔種のみ使うことができる魔法だったのだから」

ゼノンは、リューを真っ直ぐに見つめた。

「お前は……大きな戦いの後、脳死状態にあった。私は、最も進化した魂を持つお前を見捨てることができなかった。だから、あの世界を構築した。ノアと呼ばれるシミュレーション世界に、お前の情報を転送した。お前が生きて、戦って、仲間と絆を育み、自己を越えていく姿を見守りたかった。いや──観測しなければならなかった」

「それは……私を、戦いの道具として見ていたと……?」

「違う」

ゼノンは首を振った。強く、そして苦しげに。

「それはお前の命を生かす、唯一の手段だった。私は、あの世界で“人間性”をもう一度育むことができるかを試した。もしも、お前が希望を見出すなら、その魂を地球に呼び戻し、終焉を迎えつつあるこの世界に再び“希望”を根付かせることができるはずだと信じた」

リューはしばらく言葉を失った。怒りも、悲しみも、憎しみも、そこにはなかった。ただ、目の前の男が、どれほどの代償を払ってここに立っているのか。その事実だけが、胸を締めつけた。

「……ゼノン。あなたは、ずっと……」

「ああ。私は、この場所で人類の終焉を観測し続けた。そして今、お前が目覚めたということは──全ての準備が整ったということだ」

ゼノンは指を鳴らした。すると、部屋の床が滑らかに開き、半球状の装置がせり上がってきた。そこには数体の“器”──人造人間の肉体が眠っていた。そのひとつひとつが、どこか既視感を抱かせる顔立ちをしていた。

かつての敵と仲間たちに酷似した彼らの姿。

「これが、“器”だ。お前がかつて過ごしたノア世界の仲間たちを、この地に召喚するための身体。すでにすべての構造は模倣済みだ。だが──」

ゼノンの言葉に、静かな緊張が混ざった。

「彼らの魂を呼び戻すには、ダークエネルギーが必要だ。そして、ノア世界での記憶と精神構造を再構築するためには、膨大な計算資源──量子コンピュータによる解析が不可欠だ」

リューは深く息を吐いた。全てを理解したわけではない。だが、ひとつだけ確信できることがある。

──ここからが、本当の戦いだ。

「……俺にできることを、教えてくれ」

ゼノンの顔に、わずかに笑みが浮かんだ。かつての、あの優しい師の顔が、一瞬だけそこにあった。

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