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第2節「反撃の鼓動、届かぬ祈り」

 激戦はすでに半刻を超えていた。

 塔を守る魔法結界の第一層は完全に崩壊し、リューたちは塔の玄関口——“封”と呼ばれる内側の障壁まで後退していた。魔力の焦げた匂いが辺りを覆い、光と影が交錯するたび、地面がひび割れてゆく。

「ロサンジェラ、後方の防衛を頼む! カイ、俺と来い!」

「わかってる!でも魔力供給型の回復魔法が限界に近いの……!」

 リューは声を荒げず、冷静に戦局を見つめながら指示を飛ばす。だが、目の奥では焦燥が蠢いていた。敵の数は千を超え、なおかつ一人一人が信仰という名の魔力増幅器と化していた。祈りの言葉が続く限り、彼らは倒れても倒れても、立ち上がってくる。

 そして、敵の奥から、異質な気配が迫っていた。

 四つの影。仮面に覆われた異形の存導在たちが、ゆっくりと歩み出る。

 ——光神使 四光導。信徒の中でも選ばれし精鋭たち。

 先頭を歩むのは、黒衣の鎧を纏い、大鎌を肩に担いだ男。

 シェイド。かつて異端の火刑執行官として名を馳せた男。影魔法の使い手を根絶やしにすることに執念を燃やし、自身も“火と光”を掛け合わせた忌まわしき魔法を会得した。影を焼き、呪いごと塵にする存在。

「影魔法か懐かしい、影の縫い手がいるなら、まずはそちらから燃やそう」

 鋭く笑ったシェイドの声に、ザギが無言で一歩前に出る。

「……執行人か」

「お前は“焼く価値のある者”か?」

 二人の間に、静かな緊張が走る。

 その後ろに立つのは、雷の波動をまとった長身な男。巨剣に鎖を巻きつけ、肩で息をしながら堂々と進む。

 ロラン。雷と光を操る突撃型の戦士であり、破壊こそが祈りであると信じて疑わない。

「おいおい、影とか癒しとか……チマチマやってんじゃねぇよ。もっとこう——一撃で狩り落とせばいいんだよ」

 荒々しく笑いながら、巨剣を振り回す。

 三番手には、風の気流を背負った長身の戦士。

 グリフィン。軽装の双剣使いで、空中からの奇襲と撹乱に長けた狩人。今はまだ翼のような風の結界を張り、全貌を見せない。

 最後尾には、無言で立つ巨体の男。

 バルバトス。手にした大斧の重みで地面が沈むほどの質量。重力と光を融合させ、味方の前に立ちふさがる“壁”としての役目を担う。

 四天王が揃った時、リューたちの背に冷たい風が吹いた。

「これが……カミューの切り札か」

 リューが息を呑む。

「リューさん、あれ……全部倒すんですか……?」

「倒さないと、扉は……この世界は守れない」

 次の瞬間、ロランが地面に雷を落とした。

 塔の足元に雷槍が突き刺さり、爆発音が空に轟く。建物の一角が崩れ、信徒たちが歓声のような祈りを捧げる。

「来るぞ、カイ!」

 リューが魔法陣を展開し、雷を受け流す。カイはその隙を縫って前に出たが、制御しきれない水の奔流が両腕から吹き出した。

「くっ、また……止まらない……!」

「焦るな」

 リューが再び模倣魔法を展開し、ロランの雷鎖を逆にそのまま撃ち返す。だが、ロランは軽く身を引いて避けた。

「お前、なかなか面白ぇな……だが、女を守りながら勝てるかな!?」

 その言葉と共に、ロランの雷鎖が空に放たれる。雷鎖が塔の天井を焼き、ロサンジェラの頭上に落ちかけた——

「しまっ——」

 その時、ロサンジェラの態勢が崩れたと同時に雷鎖が肩をかすめ、地面が爆ぜた。

塔の裏手から轟音が響き、大地が裂ける。

 地中から隆起した岩が信徒たちの列をなぎ払い、大地震のような衝撃が塔全体に伝わった。

「……まさか」

 リューの声が震える。

 現れたのは、全身を土で包んだ巨漢の男だった。

 土竜王ザック。土の魔法を極めし守護者。岩の上に仁王立ちし、背後には数十名の土術士たちが控えている。

「ザック!」

「遅れて悪いな。本気をだせば一瞬でこいつらを埋めれるんだが、塔まで埋まっちまう、ロサンジェラに持たせていた“石”でなんとなく状況はわかっていたんだが」

 ザックは地に拳を突き立て、塔の周囲に土の盾を複数展開する。崩れかけていた防衛ラインが一瞬で修復される。

「土竜様のお通りだ。光信仰だかなんだか知らねぇが、こっから先は通さねぇ!」

 「土髪天!!!」ザックが地を踏むと、光の使徒たちの足元だけが揺れが次々に転倒する。高等な制御が必要な技だ、だが、彼らの口は祈りを止めない。

 立ち上がる彼らの姿に、カイが唖然とする。

「動じてない……」

「信仰というやつは、絶望の中でこそ輝くもんだ」

 ザギが低く呟く。

「これだけの数……これだけの祈り……」

 リューが拳を握った。

 そのとき——天が燃えた。

「炎よ炎よ、お前の渇望を開放する、煉獄よ炎舞のように舞い、燃やしたき光の信徒を灰にしろ」

 空の彼方から巨大な火球が落ちてきて、信徒たちの後方に着弾。業火が渦巻き、爆風が吹き荒れる。

「……!」

 リューの目が見開く。

 火の中から、深紅の甲冑を纏った男が歩いてきた。

 背には“煉獄”の刻印——アレン将軍率いるバルバロッサ軍。かつて敵だったその男が、今は味方として現れた。

 そして、もうひとつの風が戦場を貫く。

 吹雪のような鋭さを持つ氷の刃が、天から降り注いだ。

「まさか……アリスまで……!」

 氷の軍団を従えた雪豹姫アリスが、崖の上に姿を見せる。

 氷の矢が次々と降り注ぎ、信徒たちの隊列を切り裂いていく。

「我が物らを奪うものには死を」

「……揃ったな」

 リューは、戦友たちの登場に短く息をつき——すぐに視線を上へと向けた。

 塔の最上部。カミューの姿が、すでにそこにあった。

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