最終章 第1節「光の信徒、塔を包囲す」
“We found comfort in sound / And that’s what life’s all about.”
「安らぎを見つけた。それが人生ってものだ。」
──Feeder – “Comfort in Sound” より
雲ひとつない蒼天の下、白い外套をまとった者たちが、何千と連なって封印の塔を取り囲んでいた。
彼らは光の使徒——カミューの信徒たち。誰もが無言で、ただまっすぐ塔を見上げ、祈るように膝をついている。だがその瞳には、敬虔というより狂信の光が宿っていた。
「……まるで、光そのものを信じて疑わぬ瞳だ」
リューは塔の中層から、外を見下ろしながら呟いた。
「数……ざっと千は超えてる。いくら何でも、多すぎる」
カイが息を呑んで言った。震えが声に混じる。
塔の周囲には、かつての防御結界の一部を急場しのぎで修繕し、且つ元々の結界も残っていたが、その大半は崩壊しつつあった。特に東側の結界に至っては、信徒たちの祈りと魔力の波動によってひび割れており、いつ突破されてもおかしくない状態だった。
「カミューは、信徒一人ひとりを『魔力の増幅装置』として利用している。純粋な信仰が、光の力を通して結界を食い破る……恐ろしい仕組みだ」
ロサンジェラが額に汗を浮かべながら呟く。
その瞬間、塔の西壁が震えた。
振動は徐々に強まり、まるで地鳴りのように塔全体に響き渡る。
「来る!」
リューが叫んだ直後、結界の一角が音を立てて砕け散った。
蟻の一穴、光の奔流がそこからなだれ込み、白装束の信徒たちが列をなして進軍を始める。
「ロサンジェラ、後衛から回復を! カイ、俺と前線へ!」
「はい!」
リューの模倣魔法は、本来は瞬発的な力には向かない。だが彼はこの数年、各地での戦闘と修行の中で、自らの力を極限まで研ぎ澄ましてきた。
敵が放った光の槍を、リューは身を翻して避けつつ、その魔法の構成を見極めると、即座に“模倣”して逆方向へ返した。
相手の信徒が、模倣された自分の魔法に驚く間もなく吹き飛ばされる。
「ひとりひとりの魔力は高くない……でも、数が違いすぎる!」
カイは必死に覚醒したての水の魔法を展開するが、その水流は光の障壁に弾かれ、地を濡らすだけだった。
「焦るなカイ!」
リューが叫ぶ。だが、カイの眼に宿るのは焦燥と不安、そして微かに灯る怒りだった。
後方ではロサンジェラが仲間を癒やしながらも、魔力の消耗が激しい。
「……ザギは?」
リューが振り返ったその時——影が、塔の地面に広がるように現れた。
「闇よ影よ我が友よ、赴くままに光を食らえ」
低く冷たい声が塔の陰から響いた。
マントの裾を揺らしながら、一切の音もなく戦場へと歩み出る。次の瞬間、彼の影が地を這い、敵軍の中に分裂して流れ込んでいく。
「影魔法・暗夜行路——闇に迷え」
ザギの命令に応じるように、数百の黒い影が信徒たちの視界を覆い、錯乱と幻覚を引き起こした。
敵陣のあちこちで味方同士が魔法を放ち合い、一時的に侵攻が緩む。
「これが……ザギの力……!」
カイが思わず立ち止まる。
だが——その混乱の中をすり抜けるように現れた、異質な存在があった。
白い鎧に金の縁取り、顔を覆う仮面。目の部分だけが鋭く光り、その姿は周囲の信徒とは明らかに異なる威圧感を放っていた。
——光の使徒、明らかに異質な雰囲気を放つ4人。
「光を遮る者よ、貴様の魂を献上せよ。それが光の意志だ」
「……来たか。だが、ここは——通さない!」
リューが再び魔力を解き放つ。魔法がぶつかり合い、閃光と影が塔の入り口を包む。
戦いは、いよいよ臨界へと近づいていた——。




