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第4節:歪んだ信仰と奪われた鍵

 礼拝堂の地下、白い空間が激しく揺れていた。

 リューの模倣魔法が光の使徒たちを防ぎ、ロサンジェラの治癒結界がカイを護る。その中央で、戦いは凍るような緊張を孕んで進んでいた。

 敵は、ただの神官ではない。

 子供たち──かつて“光行”に送られた少年少女たちが、無表情に剣を振るい、呪文を放っていた。目の奥には何の感情もなく、ただ指示に従っているだけのようだった。

「……カミュー、これは“救い”なのか」

 リューの声は怒りを抑えていたが、明らかに震えていた。

 カミューは光の玉座のような高台に立ち、静かに目を伏せた。

「彼らは選ばれたのだ。自らを捧げる覚悟を持ち、光のために再構成された存在。……私の、光の軍である」

「……意志を奪った者が“覚悟”を語るのか」

 その言葉に、カミューは初めてわずかに顔を曇らせた。

「リュー。君はまだ“影”に囚われている。人が個であることに意味を求めすぎているのだ。光とは、全を照らす意志。歪みも憎しみも、すべて包み込んで同化する。それが唯一の“救済”だ」

「それは“征服”の言い換えだ」

 リューの返答と同時に、土の魔力が床を走り、迫りくる敵の足元を絡めとった。そのまま跳び上がり、水と雷の混合魔法を繰り出すが、白の障壁がその力を吸収する。

 「無駄だよ、リュー」

 カミューが手を掲げると、空間に柔らかな光が満ち、模倣されたはずの術式が“破られていく”。まるで、リューの記憶に刻まれた魔法そのものが否定されているかのようだった。

「君の力は、模倣に過ぎない。だが、私は“神の意思”を写している。この差が、今の戦場に現れているのだ」

 リューの眉がわずかに動く。

 その瞬間、背後から声が響いた。

「リューさん、ダメです! あの子たち、動きが止まってきてる……でも、完全に“壊れてる”わけじゃない!」

 ロサンジェラの叫びに、リューは一瞬目を見開いた。

 迷いが生まれた。

 目の前の敵が、もしかすると「救える存在」であるのなら──この手で倒してしまっていいのか?

 その隙を突くように、空間が裂ける。

 白い魔力の刃。放たれたのは、カミューではなく──セルンの術者だった。

「セルン……お前たちまで加担していたのか」

 カミューは背後に現れた仮面の術者を振り返り、頷く。

「彼らはかつて滅びかけたが……私の光に共鳴し、再び組織を成した。扉を開く者たち。私はその道を示したにすぎない」

「お前が……セルンを導いた?」

「正確には、共鳴し合った。それぞれが必要としていた。君の“模倣”では決して届かぬ扉を、彼らとなら開ける」

 リューが言葉を失う中、セルンの術者の一人が前へ出る。

「約束は果たす。プルートを、受け取れ。これで“鍵”が揃う」

 ロサンジェラの腕の中、白銀の筐体に封じていたプルートが、突如として強く共鳴を始めた。

 魔力の引力が働いている。

「……ロサンジェラ、離れるな!」

 だがその言葉が届く前に、白光が空間を歪め、筐体が強引に引き抜かれた。

 「しまっ……!」

 リューが踏み出す。だが、光の障壁が道を阻む。

 そこにいたのは、玉座から静かに降り立ったカミューだった。

 その表情から慈愛が失われていた。目は鋭く、言葉には凍えるような冷たさがあった。

「……ありがとう、リュー。君がここまで導いてくれた」

「……なぜだ。なぜ“奪う”?」

 その問いに、カミューは微笑んだ。

「私は、ただ道を選んだ。私の光のために」

 その言葉と共に、カミューの背後──白光の中へと、プルートを抱えたセルンと光の使徒たちが退いていく。

「待て! カミュー!!」

 リューが叫ぶが、追う手段はなかった。敵は数に勝り、結界はまだ健在。ザギすら力を封じられ、リューたちは成す術もなく、その場に取り残されていた。

* * *

 残された静寂の中、崩れ落ちた神官の一人の目が揺れていた。

 その少年は、ほんの一瞬だけ、カイに向かって、目を細めた。

 ――その中に、涙があった。

 ロサンジェラは震える声で囁く。

「……まだ、間に合うかもしれない」

 リューは拳を握りしめた。

 “光の救済”と呼ばれるその幻想が、いかに残酷な支配かを、ようやく彼は理解し始めていた。


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