第2節:失われた子供たちと光の修行
聖都ラグナ=リュミエールに滞在して三日が経った。
街は変わらず、整然とした秩序と穏やかな笑顔に満ちていた。だがその裏で、カイとロサンジェラは、街の空気に潜む奇妙な「緊張」を見逃さなかった。
「ねえ、あの母親……泣いてたよね」
カイが通りを歩きながら言った。市場の片隅、祈りの言葉を口にしながらも、肩を震わせていた若い女性。その後ろで、別の神官が「子は光の中にいる」と囁いていた。
「……どうしました?」
ロサンジェラが母親に尋ねる。
彼女によると、近ごろ信徒の子供たちが何人も“光の試練”と称された修行に送り出され、そのまま戻ってこないのだという。周囲の者は「神の意志」として受け入れていたが、それはあまりに不自然な受容だった。
その夜、宿舎でその一家が、リューたちを密かに訪ねてきた。
「お願いです……うちの子を探して。もう十日も戻ってこないんです……!」
顔を伏せて訴える母親の横で、父親らしき男が震える声で続ける。
「光神使さまは……“光の一部になった”と言いました。でも……あの子は、ただ遊びが好きで、まだ、夢も語っていたんです……それが突然、修行に選ばれて……!」
リューは黙って話を聞き、ゆっくりと頷いた。
「あなたの子の名前は?」
「エル。八歳の女の子です。明るくて、絵を描くのが好きな子で……」
「わかりました。お力になれるかわかりませんが、調べてみます」
そう告げたロサンジェラの目には、わずかな怒りの色があった。
* * *
翌日、リューたちは分担して調査を開始した。
カイは街の子供たちと触れ合いながら、“光行”に選ばれた子供たちの特徴を探った。ロサンジェラは医療奉仕の名目で、聖堂の奥へと足を運び、神官たちの動きを探る。そしてリューは、カミューの周辺に目を向けた。
調べていくうちに、ある共通点が浮かび上がる。
──“選ばれた子供たち”は、みな何らかの魔力の素質を持っていた。
偶然とは思えなかった。
その夜、聖堂に足を踏み入れたロサンジェラが、わずかな隙間から見た“儀式”の光景が決定打となった。
──ろうそくの灯りのなか、ひとりの子供が大理石の床に立たされていた。
光神官たちが円陣を組み、祈りの声とともに、奇妙な魔法陣が床に浮かぶ。
「……あなたの魔力は、神のために捧げられます」
淡々と告げる神官。その奥で、カミューが静かに目を閉じ、手を掲げていた。
ロサンジェラは息を飲み、すぐにその場から離れた。
* * *
「確かにあれは……魔力抽出に近い。いや、もっと深い“転写”の儀式よ」
ロサンジェラはリューたちの前で断言した。
「子供たちの魔力を、何かに移しているのか……?」
「可能性は高い。強制的に魔力を抜き取れば、記憶や人格にも影響が出る。下手をすれば……」
ロサンジェラは言葉を濁した。
その時、カイが部屋の窓から外を指さした。
「……あれ」
光神殿の南側──通常は立ち入りが禁じられている“地下礼拝堂”へと続く扉。その前を、白い装束の神官たちが、何かを運ぶように列をなしていた。
その列の中に、小さな影が混ざっていた。
「子供……?」
カイが呟いた。
その姿に、リューは確信する。
「……行こう。奴らの“光”が、何を覆い隠しているのかを確かめに」




